こころのガイド
認知の歪みとは?よくある種類と例、修正の方法と研究でわかった効果
よくある認知の歪みの種類と例、うつ・不安との関係、修正の方法、認知行動療法の効果を研究から整理。
認知の歪みとは:結論から
認知の歪み(cognitive distortion)とは、根拠が乏しいのに、状況を一方向に、たいていは悪いほうに偏って解釈してしまう考え方のくせを指す言葉です。「考え方の誤り」とも呼ばれます(Özdel ほか, 2014)。研究者は認知の歪みを否定的に偏った考え方と定義し、うつや落ち込んだ気分に陥りやすくする要因かもしれないと考えています(Rnic ほか, 2016)。たとえば、一度失敗しただけで「自分はいつもこうだ」と結論づける過度の一般化、何でも成功か失敗かに分ける白黒思考、根拠がほとんどないのに先のことを悪く予測する破局的思考があります。
この考え方は、アーロン・T・ベック(Aaron T. Beck)の認知理論から生まれました。認知理論では、人の感情や行動の反応は、信念や考え方の枠組みといった認知の構造に根本的に左右され、情報を否定的に偏って処理すると、感情や行動にも好ましくない結果が生じうると考えます(Özdel ほか, 2014)。何かが起きると頭に自然に浮かぶ考え(自動思考)が感情や行動の反応につながりますが、この考えに根拠のない推論の誤りが混ざると、悪い出来事はもちろん、何でもない出来事やよい出来事までもが否定的な感情につながりうる、という説明です。理論では、この流れがくり返されると、うつの症状が生じたり続いたりしうるとされます(Rnic ほか, 2016)。
ベックは1963年の論文ですでに、一つの出来事から自分の能力や成果、価値全体について結論を出してしまう過度の一般化を、うつ病に特徴的な認知の歪みとして記述していました(Raes ほか, 2023)。認知の歪みは、ベックらの1979年の本『Cognitive Therapy of Depression』で一覧にまとめられ、デビッド・D・バーンズ(David D. Burns)が1980年の本『Feeling Good』でこれを広げて、うつのときによくある考え方の誤りを10種類挙げました(Rnic ほか, 2016)。
結論からいうと、認知の歪みの点数が高い人はうつや不安の点数も高い傾向がありますが、多くは一時点で調べた相関なので、歪んだ考え方がうつを招くのか、うつになると考え方が偏るのかは、まだはっきりしていません。こうした考えに気づいて確かめる作業は認知行動療法の重要な部分で、認知行動療法はうつと不安に効果が確かめられています。ただ、考えを変える部分が、活動を増やすといった行動の部分以上に効果を上乗せするのかについては、研究によって結論が分かれています。また、認知の歪みは診断名ではなく、うつ病のない人にも見られます。
この記事では、よくある認知の歪みの種類と例、うつ・不安との関係、認知の歪みを測る尺度、自分で試せる修正の方法とその根拠、認知行動療法とセルフヘルプのプログラムの効果、よくある誤解を扱います。mind.ioには認知の歪みの検査はなく、この記事にも尺度の項目や基準点は載せていません。記事中の例文は、理解を助けるために作ったものです。
認知の歪みの種類と例:白黒思考から破局的思考まで
以下は、認知の歪み尺度(CDS)が扱う10種類です。定義は、この尺度を使った研究の説明に従っています(Rnic ほか, 2016)。バーンズのリストでは、心の読みすぎと先読みの誤りを「結論の飛躍」の下にまとめています(Batmaz ほか, 2015)。種類どうしには重なりがあり、アンケートでも一つの傾向としてまとまって出ることがあるので(「どう測るのか」を参照)、正確な名前をつけるより「この考えに根拠はあるか」を確かめるほうが実用的です。
1. 全か無か思考(白黒思考)。そのあいだにあるさまざまな評価を考えずに、物事を二つに一つで見ることです。例:「発表で一度つかえたから、もう完全に失敗だ」
2. 過度の一般化。悪いことが一度起きると、これからも悪いことが続くと思い込むことです。ベックは、一つの出来事から自分の能力や価値全体を判断することとして説明しました(Raes ほか, 2023)。例:「この面接に落ちたから、どこにも受からないだろう」
3. 心のフィルター。否定的な情報に注目し、肯定的な情報を低く見ることです。例:何度もほめられた日でも、一言の指摘だけを一日中思い出す。
4. マイナス化思考(良いことの否定)。すでに起きた良いことを無視したり、たいしたことではないと片づけたりすることです。例:「試験がうまくいったのは運がよかっただけだ」
5. 心の読みすぎ(読心術)。ほかの人が自分を悪く思っていると決めてかかることです。例:グループチャットで自分の発言への返事が遅いと「みんな自分を面倒に思っているんだ」
6. 破局的思考(先読みの誤り)。根拠がほとんどないのに、先のことを悪く予測することです。別の尺度のCD-Questはこれを「先読みの誤り(破局視)」として尋ね、「拡大解釈と過小評価」は別に尋ねます(Batmaz ほか, 2015)。例:「この報告書にミスがあったらクビになって、人生終わりだ」
7. 感情的決めつけ(感情的推論)。客観的な根拠ではなく、感情をもとに何かを事実だと信じることです。例:「こんなに不安なのだから、きっと何かがうまくいかない」
8. すべき思考。物事は必ずこうあるべきだと考えることです。CD-Questは「〜しなければならない」「〜すべきだ」「必ず〜しなければ」といった言い方を例に挙げています(Batmaz ほか, 2015)。例:「自分は絶対にミスをしてはいけない」
9. レッテル貼り。うまくいかないことがあったあと、自分に否定的なレッテルを貼ることです。例:約束を忘れて「自分はどうしようもない人間だ」
10. 個人化。悪い出来事の原因が自分にあると思い込むことです。例:チームの予定が遅れた理由はいくつもあるのに「全部自分のせいだ」
CD-Questには、ほかにも他人や自分を責めること、「もし〜だったらどうしよう」という考え、不公平な比較が含まれています(Batmaz ほか, 2015)。どれにも共通するのは、根拠にもとづかない推論の誤りだという点です(Rnic ほか, 2016)。
うつ・不安との関係:研究でわかったこと
認知の歪みは、うつや不安といっしょに見られます。カナダの大学1年生208人を調べた研究では、認知の歪み尺度(CDS)で測った頻度とうつの点数(BDI-II)の相関はr = .35でした(Rnic ほか, 2016)。トルコの研究では、精神疾患の診断にあてはまらない医学生・看護学生などの病院実習生225人の点数が、大うつ病性障害で精神科外来を受診した患者100人より低く(平均58.54点対82.85点)、実習生のグループでは20項目すべてがうつの点数と弱いから中程度の相関を示し(r = .158〜.338)、不安の点数とも関連していました(Özdel ほか, 2014)。ブラジルの大学生184人に別の尺度(CD-Quest)を使った研究では、うつの点数とr = .65、不安の点数とr = .52の相関が出ました(de Oliveira ほか, 2015)。
ただし、すでにうつ病と診断された患者のなかでは、20項目のうちうつの点数と関連したのは4項目だけで、ふだんの不安の強さ(特性不安)とは10項目が関連していました(Özdel ほか, 2014)。グループ間の差がはっきりしていても、歪みの点数だけでその人がどのくらいうつ状態なのかがわかるとは限らないということです。
これらはすべて一時点で調べた相関です。カナダの研究チームも、一時点の調査なので、それ以前のうつが認知の歪みに先立っていた可能性を否定できないと書いています(Rnic ほか, 2016)。時間の順序を見た研究もあります。地域の成人625人を集めて6か月後にもう一度調べた研究では、自分について否定的に過度の一般化をする傾向が強いと答えた人は、最初のうつの程度と、質問紙で推定した過去のうつ病の経験を考慮したあとでも、6か月後のうつ症状が強くなっていました。しかし、仮想の場面を示して過度の一般化を測った別の尺度は、その後のうつを予測せず、うつ病の初めての発症はどの尺度も予測しませんでした。研究チームは、この最後の分析は検出力が低かったと考えられるとしています(Raes ほか, 2023)。
英国王立精神医学会は、悲しいときやつらいときには、物事を極端で役に立たないかたちで解釈しやすくなることがあると説明しています(Royal College of Psychiatrists, 2022)。まとめると、認知の歪みとうつ・不安がいっしょに見られるという結果は複数の国の研究で同じ方向に出ていますが、この記事で見た研究だけでは、認知の歪みがうつを引き起こすとまでは言えません。認知の歪みを扱う治療がうつや不安を減らすかどうかは、下の効果の節で別に見ます。
どう測るのか:尺度でわかることとわからないこと
ここでは、研究で使われる尺度のうち二つを紹介します。認知の歪み尺度(Cognitive Distortions Scale, CDS)は、2011年にコヴィン(Covin)らがつくり、大学生318人で信頼性と妥当性を確かめました(Özdel ほか, 2014)。10種類の歪みを対人関係と達成(学校や職場)の二つの場面に分けて20項目で尋ね、それぞれの歪みの定義と短い事例を示したうえで、そういう考え方をどのくらいよくするかを1(まったくない)から7(いつも)で答えてもらいます。質問紙では、身構えるのを防ぐため「歪み」ではなく「考え方のタイプ」という言葉を使っています(Rnic ほか, 2016)。
認知の歪み質問票(Cognitive Distortions Questionnaire, CD-Quest)は15項目で、それぞれの歪みがどのくらいの頻度で、どのくらい強く起きるかをあわせて尋ねます(Kaplan ほか, 2017)。ブラジルの大学生184人(de Oliveira ほか, 2015)、主に気分の症状があるトルコの精神科外来患者269人(Batmaz ほか, 2015)、治療を求めて来た社交不安症の成人で妥当性が確かめられ、最後の研究では治療による点数の変化をとらえる感度も確認されました(Kaplan ほか, 2017)。
尺度でわかるのは全体的な傾向です。複数の研究の因子分析で、10〜15種類の歪みは一つの因子にまとまりました(Özdel ほか, 2014; de Oliveira ほか, 2015; Batmaz ほか, 2015; Kaplan ほか, 2017)。ただし、CD-Questを最初に学会で発表した分析では四つの因子に分かれたとされています(Batmaz ほか, 2015)。ですから、「自分は心の読みすぎタイプ」のように一つの種類を診断するように読むのは慎重にしたほうがよいでしょう。トルコの研究は、6点か7点をつけた項目を「あり」と数える採点法を試しましたが、診断のない実習生でも平均1.66項目(標準偏差2.87)、うつ病の患者では平均5.69項目が「あり」でした。研究チームは、この尺度を臨床や実験に使うときにはある程度の注意が必要だと付け加えています(Özdel ほか, 2014)。
尺度にはわからないこともあります。点数は、そういう考え方をどのくらいよくするかを自分で答えたもので、いま浮かんでいる考えが実際に間違っているかどうかを判定するものではありません。うつ病などを診断する道具でもありません。mind.ioには認知の歪みの検査はありません。自分を低く見る考えが多いなら自己肯定感テストでいまの自己肯定感を、気分や不安が気になるならこの2週間の症状を尋ねるうつのセルフチェック(PHQ-9)と不安のセルフチェック(GAD-7)で状態を確かめられます。これらも診断ではなく、自分をふり返るためのチェックです。
修正のしかた:気づく、確かめる、試してみる
最初のステップは気づくことです。英国国民保健サービス(NHS)は、この流れを「気づく、確かめる、変える(catch it, check it, change it)」と呼んでいます。私たちは役に立たない考え方をしていることにすら気づかないことが多いので、どんな考え方が役に立たないかを知っておくと気づきやすくなることがあると説明しています。練習するほど楽になり、やがて自然にできるようになることもあるそうです(NHS, 2026a)。
気づいた考えは確かめてみます。NHSは、心配している結果が起きる可能性はどのくらいか、その考えにしっかりした根拠はあるか、ほかの説明やほかの結果はないか、別の見方を支える根拠はあるか、友だちがこう考えていたら何と言うかを自分に問いかけるよう勧めています(NHS, 2026a)。英国王立精神医学会も「これが本当だという証拠は?」「ほかの考え方はない?」「同じ立場の友だちには何とアドバイスする?」といった問いを例に挙げています(Royal College of Psychiatrists, 2022)。治療でこのように問いを通じて考えを確かめるソクラテス式質問は、うつ病の認知療法の中心的な戦略とされています(Braun ほか, 2015)。
思考記録(thought record)は、この流れを書き出す認知行動療法のよくある練習です。NHSが案内する思考記録には7つの欄があります。何があったか、最初に感じた気持ち、浮かんだ役に立たない考え、その考えを支える根拠、その考えに反する根拠、より現実的または中立的な別の考え、書き終えたあとの気持ちです。頭のなかだけでやってもかまいませんが、ふつうは書き留めておくほうがよいとされます(NHS, 2026b)。NHSの例のように、用事を忘れて「自分は役立たずだ」と思ったなら、その横に、ほかにやるべきことは全部覚えていたという反対の根拠を書いてみる、といったやり方です。
治療のなかで問いかけが役立つという根拠もあります。16週間の認知療法を受けたうつ状態の成人55人を見た研究では、初期のセッションで治療者がその人にふだんよりソクラテス式質問を多く使うと、次のセッションまでにうつの点数がより大きく下がりました(1標準偏差増えるごとにBDI-IIで1.51点)(Braun ほか, 2015)。うつ病の認知行動療法を受けた123人を見た別の研究では、こうした問いかけが考え方の変化を通じて症状を減らすという解釈と合う結果が出て、問いかけが考え方の変化につながる効果は、治療開始時に認知行動療法のスキルが低かった人ほど強くなっていました(Vittorio ほか, 2022)。どちらも治療の経過を観察した研究なので、問いかけを無作為に割り当てる実験のように原因を確定することはできません。
考えを実際に試してみる方法もあります。英国王立精神医学会の例では、疲れてうつ状態のときに、毎日20分散歩したらもっと悪くなるのではと心配なら、1週間実際にやってみて記録をつけ、その予測が当たっていたかを確かめます(Royal College of Psychiatrists, 2022)。こうした行動実験と思考記録は、認知行動療法の中心的な二つの技法とされています。非臨床の参加者91人を三つの条件に無作為に分けた実験では、1回の思考記録と1回の行動実験のどちらも、対照条件より信念、不安、行動、症状の尺度を改善し、行動実験のほうには、信念が早く変わり、他人についての信念にまで変化が広がるという小さな利点がありました(McManus ほか, 2012)。認知療法の研修コースの参加者が二つの技法を自分に使ってみた研究でも、行動実験のほうが強力で説得力があると感じられていました(Bennett-Levy, 2003)。
考えが変わらなくてもかまいません。NHSは、考えを変えられなくても気にしなくてよく、考えを変えることだけがこのプロセスで得られる利益ではないとしています。目的はより柔軟に考えられるようになることで、このプロセスが直面している問題そのものを解決してくれるわけではありませんが、否定的な悪循環を断ち切る助けにはなりうると説明しています(NHS, 2026a)。
認知行動療法とセルフヘルプの効果、「考えを変えること」は必要か
認知の歪みを直接扱う治療が認知行動療法です。韓国保健福祉部は、認知行動療法を、歪んだ考えを自分で見つけて修正し、誤って学習した行動を変える精神療法だと説明しています(韓国保健福祉部, 2018)。うつ病の認知行動療法の無作為化比較試験409本(52,702人)をまとめたメタ分析では、通常の治療や待機などの対照条件と比べた271の比較で、治療直後の効果量はg = 0.79と、中程度から大きいものでした。ただし、バイアスのリスクが低い試験だけを見ると0.60、出版バイアスを補正すると0.47に小さくなりました。症状が半分以上減った人の割合は認知行動療法で42%、対照条件で19%でしたが、多くの研究では平均点から推定した割合です。ほかの心理療法より優れている程度は小さく、ほとんどの感度分析では有意ではありませんでした(Cuijpers ほか, 2023)。
不安関連の障害では、認知行動療法を偽薬(薬の偽薬や心理的な偽薬)と比べた無作為化比較試験41本(2,843人)をまとめた分析で、効果は中程度でした(g = 0.56)。この分析では、主に曝露を使った治療は、認知技法や認知・行動技法を使った治療より効果量が大きかったものの、その差は統計的に有意ではありませんでした(Carpenter ほか, 2018)。
ひとりで取り組む方法にも効果がありました。治療者の支援なしに行うセルフヘルプの認知行動療法は、インターネットを使うものも使わないものも含めて36本(11,720人)でうつに小さいから中程度の効果を示しましたが(g = 0.45)、出版バイアスを補正すると0.25に下がりました(Cuijpers ほか, 2023)。うつ病の試験155本(15,191人)をまとめたネットワーク・メタ分析では、専門家の支援を受けるガイド付きセルフヘルプは、個人・集団・電話での認知行動療法と効果に差がなく、この四つはどれも支援なしのセルフヘルプより優れていました。ただし、ガイド付きセルフヘルプは個人や集団の認知行動療法より途中でやめる人が多くなりました(Cuijpers ほか, 2019)。うつと不安症でガイド付きセルフヘルプと対面の心理療法を直接比べた21本(810人)でも、治療直後の差はありませんでした(d = −0.02)(Cuijpers ほか, 2010)。インターネット認知行動療法の個人データをまとめた分析では、PHQ-9が5〜9点の人ではガイドの有無による差は小さかった一方、10点以上ではガイドを受けたほうがよい結果でした(Karyotaki ほか, 2021)。
では、考えを変える部分は本当に必要なのでしょうか。この問いには有力な反論があります。大うつ病の外来患者150人を、活動を増やす行動活性化だけ、行動活性化に自動思考を変えるスキルを加えた治療、認知療法全体のいずれかに無作為に割り当てた試験では、治療直後にも6か月後にも、認知療法全体のほうが優れているという証拠はなく、否定的な考えも、部分だけの二つの治療が全体と同じくらい変えていました(Jacobson ほか, 1996)。2007年のレビューは、構成要素を分けて調べた研究では、特定の認知技法が治療効果を有意に高めるという証拠はほとんどなく、考え方の変化が症状改善の原因だという実証的な裏づけも乏しいとまとめています(Longmore & Worrell, 2007)。大うつ病の成人241人を比べた試験では、より重いうつの患者で行動活性化が抗うつ薬と同程度で、どちらも認知療法より有意に優れていました(Dimidjian ほか, 2006)。英国で440人を割り当てた試験では、より簡素な訓練を受けた初級のメンタルヘルス職員が行った行動活性化は、12か月後のうつの点数(PHQ-9)で認知行動療法に劣りませんでした(両群とも平均8.4点)。この試験の認知行動療法には、思考記録で否定的な自動思考が正確かどうかを確かめる作業が含まれていました(Richards ほか, 2016)。インターネット認知行動療法の試験76本の構成要素を分けて調べた分析では、行動活性化は役立つかもしれず、リラクセーションはかえって害になるかもしれないという示唆的な結果が出ましたが、抄録には認知再構成についての結果は書かれていません(Furukawa ほか, 2021)。
反対側の根拠もあります。2015年のレビューは、それまでの研究の方法や推論の限界を指摘したうえで、認知技法はうつ症状を減らすのに効果があり、どのような方法で起きたにせよ考え方の変化は症状の変化に寄与していると結論づけました(Lorenzo-Luaces ほか, 2015)。成人のうつ病の研究45本(3,382人)をまとめたネットワーク・メタ分析では、対面の個人療法として行われた認知再構成だけ、行動活性化だけ、両方を合わせた認知行動療法のいずれも通常の治療や待機より優れ、三つのあいだに差があるという証拠はありませんでしたが、研究チームは、認知再構成について結論を出すにはさらに研究が必要だと付け加えています(Ciharova ほか, 2021)。認知療法で改善したうつ病患者35人を1年間追った研究では、認知療法の対処スキルを身につけて自分で使えた人ほど再発のリスクが低かった一方、治療終了時の自己肯定感は再発を予測しませんでした(Strunk ほか, 2007)。
まとめると、考えを確かめる技法にも効果はありますが、いくつかの比較では行動の部分だけでも同じくらいの効果が出ているため、何が核心なのかはまだ決着していません。ですから、思考記録だけに頼るより、先延ばしにしていた活動を小さく再開してみるといった行動の面の方法もあわせて試す価値があります。行動活性化についてはうつ病のガイドでさらに扱っています。韓国では2018年、政府がうつ病、パニック症、心的外傷後ストレス障害などに対する標準化された認知行動療法に健康保険を適用することを決めました(韓国保健福祉部, 2018)。初めて受診するときの流れは初めての精神科にまとめています。
ひとりで取り組んでもよくならない、あるいは落ち込みや不安が続いて日常生活がつらいなら、専門家の助けを受けてください。韓国では精神健康医学科や地域の精神健康福祉センター、ほかの国ではかかりつけ医や地域の精神保健の窓口に相談できます。死にたい気持ちがあるなら、一人で抱えず、すぐに「よりそいホットライン」(0120-279-338、24時間・無料)に連絡してください。今すぐ命の危険があるときは、119(救急)または110(警察)に連絡してください。
よくある誤解
「ポジティブに考えよう」という意味ではありません。英国王立精神医学会は「認知行動療法はただのポジティブ思考だ」という言い方を誤解として挙げ、より役に立つ現実的な考え方を身につけることだと説明しています(Royal College of Psychiatrists, 2022)。あるレビューも、認知行動療法は考え方を現実に合わせ直すことをめざすと説明しています(Longmore & Worrell, 2007)。「自分は完璧だ」に置き換えるのではなく、「今回は失敗したけれど、いつもそうなわけではない」のように、根拠に合う考えを探すということです。
こうした考えは、診断のない人にも見られます。前のトルコの研究では、精神疾患の診断のない実習生でも、認知の歪み尺度の20項目のうち平均1.66項目に6点か7点(7点は「いつも」)をつけていました。ただし、うつ病の患者は平均5.69項目と、ずっと多くなっていました(Özdel ほか, 2014)。こうした考えがときどき浮かぶというだけで、何か問題があるという意味にはなりません。
認知の歪みは診断名ではありません。考え方が一方に偏るあり方を指す言葉で(Rnic ほか, 2016)、認知の歪みの点数が高くても、うつ病や不安症だという意味にはなりません。診断は、症状や続いている期間、日常生活への支障を見て専門家が下します。
否定的な考えがすべて歪みというわけではありません。借金のような現実的な問題には、認知行動療法でも問題解決の技法を使います(Royal College of Psychiatrists, 2022)。うつの人のほうがかえって現実を正確に見ているという「抑うつリアリズム」の研究75本(7,305人)をまとめたメタ分析では、その効果は小さく(d = −.07)、うつの人もそうでない人もおおむね肯定的な方向に偏って判断しており、その偏りはうつでない人のほうが大きいものでした(Moore & Fresco, 2012)。判断が正確かどうかは状況によって違うので、歪みかどうかは根拠で確かめる必要があります。
すぐに直るものでもありません。英国王立精神医学会は「認知行動療法は手っ取り早く簡単だ」という言い方も誤解として挙げ、長年の習慣を変えるには時間と練習が必要だと説明しています(Royal College of Psychiatrists, 2022)。NHSも、練習するほど楽になるとしています(NHS, 2026a)。
よくある質問
Q. 認知の歪みのテストはありますか? A. 研究用には、認知の歪み尺度(CDS、20項目)や認知の歪み質問票(CD-Quest、15項目)といった尺度があります(Özdel ほか, 2014; Kaplan ほか, 2017)。ただ、この記事で読んだ研究は、広く合意された基準点を示しておらず、複数の研究で、歪みの種類はアンケートでは一つの因子にまとまりました。mind.ioには認知の歪みの検査はありません。無料のオンラインテストを受けるとしても、考え方のくせをふり返る参考程度にとどめてください。
Q. 認知の歪みはなぜ生じるのですか? A. ベックの理論では、自動思考の内容はたいてい自分や他人、世界についての中核的な信念と一致していて、その信念はおもに「愛されない」という方向と「無力だ」という方向に分かれると説明されます(Rnic ほか, 2016)。ベックのうつ病の発達モデルは、早い時期のトラウマ体験とそのときにできた非機能的な信念をうつ病の素地となる要因、のちにその信念とかみ合うストレスをきっかけとなる要因と考えます(Beck, 2008)。理論上の説明なので、ある人の考えがどこから来たのかをこれだけで決めつけることはできません。
Q. 認知の歪みと自己肯定感はどう関係しますか? A. 認知の歪みを研究したチームは、自己肯定感を、認知の歪みともうつとも関連する変数として挙げています(Rnic ほか, 2016)。低い自己肯定感を直接扱う認知行動療法の研究8本を検討し、7本をまとめたメタ分析では、毎週通う形式は治療直後の自己報告の点数を大きく(効果量1.12)、1日のワークショップは小さく(0.34)改善しました。ただし研究の数は少なく、うつを減らす治療とどのくらい違うのかははっきりしませんでした(Kolubinski ほか, 2018)。うつ病の認知療法の研究では、身につけた対処スキルは再発リスクの低さを予測しましたが、治療終了時の自己肯定感は予測しませんでした(Strunk ほか, 2007)。いまの自己肯定感は自己肯定感テストで確かめられますが、この検査は認知の歪みを測るものではありません。
Q. どのくらい続ければ効果がありますか? A. 問題や経過によって違います。英国王立精神医学会は、認知行動療法のコースは6週間から6か月かかることがあり、治療者とはふつう6〜20回会うと案内し(Royal College of Psychiatrists, 2022)、NHSはふつう5〜15回としています(NHS, 2025)。ひとりでの練習も、続けるほど楽になり、やがて自然にできるようになることもあるそうです(NHS, 2026a)。
Q. どんなときに専門家の助けを受けるべきですか? A. ひとりで取り組んでも日常生活がつらいままなら、PHQ-9やGAD-7で10点以上なら、またはPHQ-9の9問目(死や自分を傷つけることについての考え)に「全くない」以外を答えたなら、合計点にかかわらず専門家に相談してください。mind.ioはこうした場合に専門家に話してみることをすすめています。自分を傷つけたいという気持ちがあるなら、一人で抱えずにすぐに「よりそいホットライン」(0120-279-338、24時間・無料)に連絡してください。インターネット認知行動療法の研究では、PHQ-9が10点以上の人には人のガイドがあるプログラムのほうがよい結果で(Karyotaki ほか, 2021)、英国王立精神医学会も、セルフヘルプの認知行動療法は専門家の支援をあわせて受けると効果が出やすいとしています(Royal College of Psychiatrists, 2022)。
Q. こうした考えのせいで、死にたいほどつらいです。 A. 一人で抱えないでください。すぐに「よりそいホットライン」(0120-279-338、24時間・無料)に連絡してください。いのちの電話(0570-783-556、毎日10:00〜22:00・通話料がかかります)もあります。今すぐ命の危険があるときは、119(救急)または110(警察)に連絡してください。
参考文献:Özdel, K., Taymur, I., Guriz, S. O., Tulaci, R. G., Kuru, E., & Turkcapar, M. H. (2014), Measuring cognitive errors using the Cognitive Distortions Scale (CDS): psychometric properties in clinical and non-clinical samples, PLoS ONE 9(8), e105956, https://doi.org/10.1371/journal.pone.0105956; Rnic, K., Dozois, D. J. A., & Martin, R. A. (2016), Cognitive distortions, humor styles, and depression, Europe’s Journal of Psychology 12(3), 348-362, https://doi.org/10.5964/ejop.v12i3.1118; Raes, F., Griffith, J. W., Craeynest, M., Williams, J. M. G., Hermans, D., Barry, T. J., Takano, K., & Hallford, D. J. (2023), Overgeneralization as a predictor of the course of depression over time: the role of negative overgeneralization to the self, negative overgeneralization across situations, and overgeneral autobiographical memory, Cognitive Therapy and Research 47(4), 598-613, https://doi.org/10.1007/s10608-023-10385-6; Batmaz, S., Kocbiyik, S., & Yuncu, O. A. (2015), Turkish version of the Cognitive Distortions Questionnaire: psychometric properties, Depression Research and Treatment 2015, 694853, https://doi.org/10.1155/2015/694853; de Oliveira, I. R., Seixas, C., Osório, F. L., Crippa, J. A., de Abreu, J. N., Menezes, I. G., Pidgeon, A., Sudak, D., & Wenzel, A. (2015), Evaluation of the psychometric properties of the Cognitive Distortions Questionnaire (CD-Quest) in a sample of undergraduate students, Innovations in Clinical Neuroscience 12(7-8), 20-27, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26351620/; Royal College of Psychiatrists (2022), Cognitive behavioural therapy (CBT), https://www.rcpsych.ac.uk/mental-health/treatments-and-wellbeing/cognitive-behavioural-therapy-(cbt); Kaplan, S. C., Morrison, A. S., Goldin, P. R., Olino, T. M., Heimberg, R. G., & Gross, J. J. (2017), The Cognitive Distortions Questionnaire (CD-Quest): validation in a sample of adults with social anxiety disorder, Cognitive Therapy and Research 41(4), 576-587, https://doi.org/10.1007/s10608-017-9838-9; NHS (2026a), Reframing unhelpful thoughts [Every Mind Matters], https://www.nhs.uk/every-mind-matters/mental-wellbeing-tips/self-help-cbt-techniques/reframing-unhelpful-thoughts/; Braun, J. D., Strunk, D. R., Sasso, K. E., & Cooper, A. A. (2015), Therapist use of Socratic questioning predicts session-to-session symptom change in cognitive therapy for depression, Behaviour Research and Therapy 70, 32-37, https://doi.org/10.1016/j.brat.2015.05.004; NHS (2026b), Thought record [Every Mind Matters], https://www.nhs.uk/every-mind-matters/mental-wellbeing-tips/self-help-cbt-techniques/thought-record/; Vittorio, L. N., Murphy, S. T., Braun, J. D., & Strunk, D. R. (2022), Using Socratic questioning to promote cognitive change and achieve depressive symptom reduction: evidence of cognitive change as a mediator, Behaviour Research and Therapy 150, 104035, https://doi.org/10.1016/j.brat.2022.104035; McManus, F., Van Doorn, K., & Yiend, J. (2012), Examining the effects of thought records and behavioral experiments in instigating belief change, Journal of Behavior Therapy and Experimental Psychiatry 43(1), 540-547, https://doi.org/10.1016/j.jbtep.2011.07.003; Bennett-Levy, J. (2003), Mechanisms of change in cognitive therapy: the case of automatic thought records and behavioural experiments, Behavioural and Cognitive Psychotherapy 31(3), 261-277, https://doi.org/10.1017/S1352465803003035; Ministry of Health and Welfare (2018), Get counselling treatment at a nearby psychiatric clinic: psychotherapy fee reform and lower co-payments [press release, in Korean], https://www.mohw.go.kr/board.es?mid=a10503000000&bid=0027&act=view&list_no=343770; Cuijpers, P., Miguel, C., Harrer, M., Plessen, C. Y., Ciharova, M., Ebert, D., & Karyotaki, E. (2023), Cognitive behavior therapy vs. control conditions, other psychotherapies, pharmacotherapies and combined treatment for depression: a comprehensive meta-analysis including 409 trials with 52,702 patients, World Psychiatry 22(1), 105-115, https://doi.org/10.1002/wps.21069; Carpenter, J. K., Andrews, L. A., Witcraft, S. M., Powers, M. B., Smits, J. A. J., & Hofmann, S. G. (2018), Cognitive behavioral therapy for anxiety and related disorders: a meta-analysis of randomized placebo-controlled trials, Depression and Anxiety 35(6), 502-514, https://doi.org/10.1002/da.22728; Cuijpers, P., Noma, H., Karyotaki, E., Cipriani, A., & Furukawa, T. A. (2019), Effectiveness and acceptability of cognitive behavior therapy delivery formats in adults with depression: a network meta-analysis, JAMA Psychiatry 76(7), 700-707, https://doi.org/10.1001/jamapsychiatry.2019.0268; Cuijpers, P., Donker, T., van Straten, A., Li, J., & Andersson, G. (2010), Is guided self-help as effective as face-to-face psychotherapy for depression and anxiety disorders? A systematic review and meta-analysis of comparative outcome studies, Psychological Medicine 40(12), 1943-1957, https://doi.org/10.1017/S0033291710000772; Karyotaki, E., Efthimiou, O., Miguel, C., Bermpohl, F. M. G., Furukawa, T. A., Cuijpers, P., & IPDMA-DE Collaboration (2021), Internet-based cognitive behavioral therapy for depression: a systematic review and individual patient data network meta-analysis, JAMA Psychiatry 78(4), 361-371, https://doi.org/10.1001/jamapsychiatry.2020.4364; Jacobson, N. S., Dobson, K. S., Truax, P. A., Addis, M. E., Koerner, K., Gollan, J. K., Gortner, E., & Prince, S. E. (1996), A component analysis of cognitive-behavioral treatment for depression, Journal of Consulting and Clinical Psychology 64(2), 295-304, https://doi.org/10.1037/0022-006X.64.2.295; Longmore, R. J., & Worrell, M. (2007), Do we need to challenge thoughts in cognitive behavior therapy?, Clinical Psychology Review 27(2), 173-187, https://doi.org/10.1016/j.cpr.2006.08.001; Dimidjian, S., Hollon, S. D., Dobson, K. S., Schmaling, K. B., Kohlenberg, R. J., Addis, M. E., et al. (2006), Randomized trial of behavioral activation, cognitive therapy, and antidepressant medication in the acute treatment of adults with major depression, Journal of Consulting and Clinical Psychology 74(4), 658-670, https://doi.org/10.1037/0022-006X.74.4.658; Richards, D. A., Ekers, D., McMillan, D., Taylor, R. S., Byford, S., Warren, F. C., et al. (2016), Cost and outcome of behavioural activation versus cognitive behavioural therapy for depression (COBRA): a randomised, controlled, non-inferiority trial, The Lancet 388(10047), 871-880, https://doi.org/10.1016/S0140-6736(16)31140-0; Lorenzo-Luaces, L., German, R. E., & DeRubeis, R. J. (2015), It’s complicated: the relation between cognitive change procedures, cognitive change, and symptom change in cognitive therapy for depression, Clinical Psychology Review 41, 3-15, https://doi.org/10.1016/j.cpr.2014.12.003; Ciharova, M., Furukawa, T. A., Efthimiou, O., Karyotaki, E., Miguel, C., Noma, H., Cipriani, A., Riper, H., & Cuijpers, P. (2021), Cognitive restructuring, behavioral activation and cognitive-behavioral therapy in the treatment of adult depression: a network meta-analysis, Journal of Consulting and Clinical Psychology 89(6), 563-574, https://doi.org/10.1037/ccp0000654; Furukawa, T. A., Suganuma, A., Ostinelli, E. G., Andersson, G., Beevers, C. G., Shumake, J., et al. (2021), Dismantling, optimising, and personalising internet cognitive behavioural therapy for depression: a systematic review and component network meta-analysis using individual participant data, The Lancet Psychiatry 8(6), 500-511, https://doi.org/10.1016/S2215-0366(21)00077-8; Strunk, D. R., DeRubeis, R. J., Chiu, A. W., & Alvarez, J. (2007), Patients’ competence in and performance of cognitive therapy skills: relation to the reduction of relapse risk following treatment for depression, Journal of Consulting and Clinical Psychology 75(4), 523-530, https://doi.org/10.1037/0022-006X.75.4.523; Moore, M. T., & Fresco, D. M. (2012), Depressive realism: a meta-analytic review, Clinical Psychology Review 32(6), 496-509, https://doi.org/10.1016/j.cpr.2012.05.004; Beck, A. T. (2008), The evolution of the cognitive model of depression and its neurobiological correlates, American Journal of Psychiatry 165(8), 969-977, https://doi.org/10.1176/appi.ajp.2008.08050721; Kolubinski, D. C., Frings, D., Nikčević, A. V., Lawrence, J. A., & Spada, M. M. (2018), A systematic review and meta-analysis of CBT interventions based on the Fennell model of low self-esteem, Psychiatry Research 267, 296-305, https://doi.org/10.1016/j.psychres.2018.06.025; NHS (2025), Cognitive behavioural therapy (CBT): overview, https://www.nhs.uk/mental-health/talking-therapies-medicine-treatments/talking-therapies-and-counselling/cognitive-behavioural-therapy-cbt/overview/
ひとりで抱えなくて大丈夫です
自分を傷つけたい気持ちになったときや、心がつらくてたまらないときは、下の窓口に相談できます。よりそいホットラインは24時間つながります。
- よりそいホットライン 0120-279-338 24時間・無料
- いのちの電話(ナビダイヤル) 0570-783-556 毎日10:00〜22:00・通話料がかかります
- いのちの電話(フリーダイヤル) 0120-783-556 毎日16:00〜21:00・無料
今すぐ命の危険があるときは、119(救急)または110(警察)に連絡してください。
気になっていそうな友だちや家族に、この記事を送ってみましょう。