解釈ガイド
多重知能理論に根拠はある? ガードナーの8つの知能と多重知能診断の正確さ
多重知能理論は何を主張している? ガードナーの8つの知能、知能どうしは本当に独立しているのか、多重知能診断の正確さ、IQや学習スタイルとの違いを研究から整理。
多重知能理論とは:ガードナーの8つの知能
多重知能理論は、ハワード・ガードナーが1983年の著書『Frames of Mind(心の枠組み)』で初めて示した知能の理論です。知能は一つだけで、IQのような短い答えの検査で十分に測れるという従来の見方を批判し、人にはそれぞれ比較的独立した複数の知的能力があると主張しています(MI Oasis, n.d.-a)。ガードナーはこれを比較的独立した何台ものコンピュータにたとえ、一台が強くてもほかの強さや弱さは予測できないと説明しています(Gardner, n.d.)。
ガードナーは、脳損傷の影響を調べた研究の証拠をかなりの程度もとにして、人には言語、論理数学、音楽、空間、身体運動、対人、内省の少なくとも7つの認知の形があると主張し、その後に追加で確認したと述べている知能は博物的知能の一つだけです(Gardner, 2025)。そのため、ふつうは「8つの知能」と呼ばれます。博物的知能は植物や雲の形のように自然のなかのものを意味のある形で見分ける能力、対人的知能は他人の気分・感情・気質・動機に気づいてうまく関わる能力(社会的知能とも呼ばれます)、内省的知能は自分の感情・目標・不安に気づき、自分の特性にそって計画し行動する能力です(MI Oasis, n.d.-b)。
ガードナーによれば、ある能力が知能と認められるには、『Frames of Mind』第4章に示した8つの基準を満たす必要があります(Gardner, n.d.)。その能力を担う脳のしくみを特定できるか、進化の歴史として妥当か、中核となる処理と記号の体系があるか、はっきりした発達の道筋があるか、サヴァンや神童のような特別な例があるか、実験心理学や心理測定の研究の証拠があるか、などです(Shearer, 2018)。ガードナーは「大きな問い」を扱う実存的知能や、他人に知識や技能を伝える教育的知能も可能性として挙げましたが(Gardner, n.d.)、今は候補が知能にあたるかを厳密に判定することはしておらず、判断は保留のままだとし、霊的知能はないと考えています(Gardner, 2020)。人の知能は7〜10種類と見積もってもいます(Gardner, 2013)。
このガイドでは、こうした主張を研究がどう検討してきたか、学校や相談の場などで受けることのある多重知能診断をどう読めばよいかをまとめました。以下は理論についての研究結果で、一人の能力を判定する基準ではありません。mind.ioには多重知能のテストはありません。
知能は本当にばらばらなのか:能力検査で確かめた研究
ガードナーは、多重知能理論は実験の理論ではなく、一つの実験や一連の実験で正しいか誤りかを決められるものではないと述べています(Gardner, 2026)。公式サイトはこの理論を、心理学、脳科学、人類学、遺伝学などの研究を総合したものと説明し(MI Oasis, n.d.-c)、ガードナー自身も、標準的な心理測定の研究者はほとんどいつもこの理論に批判的だと認めています(Gardner, n.d.)。2006年には一つの学術誌で論争がありました。多重知能、モーツァルト効果、感情知能の理論をまとめて検討したある批判的レビューは、これらの理論は教育で広く使われているものの実証的な裏づけが十分でなく、教育実践の土台にすべきではないとし(Waterhouse, 2006a)、ガードナーとモランは批判者が理論を誤解し単純化しすぎていると反論し(Gardner & Moran, 2006)、批判者はその反論にも多重知能を裏づける証拠はなかったと答えました(Waterhouse, 2006b)。3本とも抄録で確認しました。
知能が本当に別々に働くのかは、能力検査で確かめられます。8つの領域それぞれについて2つずつの能力検査を200人に実施した研究では、純粋に認知的な検査はどれも一般的な認知能力の検査と有意に相関しましたが、音楽と身体運動の検査、そして内省の検査の一つは相関しませんでした。検査どうしには正の相関がみられ、因子分析では大きな一般知能の因子が現れて、多重知能理論が予測すると思われる結果とは違っていました(Visser, 2005)。この結果は修士論文の抄録で確認しました。200人の8つの知能の得点を分析した2006年の論文で、研究者たちはこの結果が、少なくとも8つの独立した知能の領域があるというガードナーの主張と食い違うと書いています(Visser ほか, 2006; Waterhouse, 2023より引用)。
ガードナーは、この研究が言語的知能と論理数学的知能に頼る検査を使ったから知能どうしに相関が出ただけだと反論し、研究者たちは、相関は問題が言語や推論を使うかどうかではなく、課題の出来の個人差が互いに関係することから生じると答えました。この二つの反論は、批判者のまとめでしか確認できていません(Waterhouse, 2023)。
子どもの研究も同じ方向でした。5〜7歳の子ども294人に従来の知能検査のセットと多重知能の課題のセットを両方実施した研究では、両方にまたがる共通の一般因子はありませんでしたが、かわりにそれぞれのセットの検査をまとめる一般因子が2つ現れ、2つは中程度に相関しました。多重知能の課題も一つの一般因子にまとまり、研究者たちはこの結果を、一般知能の因子を否定したガードナーの当初の立場への挑戦だとみています(Almeida ほか, 2010)。この研究は抄録で確認しました。プロジェクト・スペクトラムの活動を分析した別の研究でも、完全に当てはまるモデルはなく、最も当てはまったのは知能どうしが相関しつつ多少の個別性もある構造でした(Castejón ほか, 2010; Waterhouse, 2023より引用)。
ガードナーの理論を直接検証した研究ではありませんが、人を扱う能力と物を扱う能力を比べたあるメタ分析は、序論で初期の知能研究をこうまとめています。能力どうしの相関がゼロに近ければ独立した多重知能を支持したはずだが、実際の平均相関は.30〜.50に近かった、というものです。このメタ分析自体がまとめた87の研究、2,322の効果量では、測定の信頼性による減衰を補正した値で、個人的・感情的・社会的知能のような人を扱う能力どうしは.43、視空間や数量の知識のような物を扱う能力どうしは.74、2つのまとまりのあいだは.29でした。この研究が土台にしている知能のモデルでは、一番上に一般知能(g)があり、その下に幅広い能力が並びます(Bryan & Mayer, 2021)。能力は一つだけでも、完全にばらばらでもないということです。一般知能とは何かはIQテストのガイドにまとめています。
ガードナーも一般知能(g)の存在を否定してはいません。公式サイトは、多重知能理論が問うのはgの存在ではなくgが及ぶ範囲と説明力であり、gはさまざまな検査の重なりを表すので、その力はどの検査を組み合わせるかによって変わると説明しています(MI Oasis, n.d.-c)。ガードナーは、IQ検査は言語的知能と論理数学的知能を、ときには空間的知能も測り、20世紀型の(21世紀型とは限らない)一般の学校で誰がうまくやるかをかなりよく予測するとみています(MI Oasis, n.d.-a)。
脳科学で確かめられたのか
脳損傷で特定の能力だけが失われうることは、ガードナーが知能の8つの基準の一つにした根拠です(Rousseau, 2021)。多重知能の検査をつくったシアラーは、カラニアンとともに2017年に脳の領域についての研究318件を検討し、脳の領域の働きが8つの知能それぞれに想定された働きと一致すると報告して、それぞれの知能が独自の神経構造をもつ「確かな証拠」だと書きました(Shearer & Karanian, 2017; Waterhouse, 2023より引用)。シアラーは、自分が多重知能の検査MIDASの作成者で発行者であることを利益相反として明らかにしています(Shearer, 2018)。
ある批判者は、こうした「対応づけ」の研究は、人が特定の知能を使っているあいだの脳を測ったものではないので本当の妥当性の研究とはいえず、知能ごとに専用の神経ネットワークがあることを示せないと指摘しています。318件の研究をどう選んだのかも十分に説明されておらず、言語的知能に割り当てられた8つの領域だけで脳のほぼ全体になるとも述べています。何より、これまで知能ごとの脳の基盤を直接探した研究者はいないとしています(Waterhouse, 2023)。
ガードナーは、神経科学の新しい研究を多重知能の新たな証拠として紹介した2025年の文章で、重要な課題が特定の神経基盤と結びついているとは限らず、大脳皮質のしくみはさまざまな知識の領域にまたがる抽象的な計算をこなせると書いています(Gardner, 2025)。批判者は、今こそ多重知能理論を退け、教育者は根拠にもとづく教え方に移るべきだと主張していますが(Waterhouse, 2023)、別の論評は、理論そのものはいまも妥当で正当な科学理論だとし、神経神話にあたるのは子どもの知能のプロフィールに合わせて教えればよく学べるという主張のほうだと区別しています(Rousseau, 2021)。まとめると、多重知能を裏づける脳科学の直接の証拠はまだありませんが、それが理論全体にとって何を意味するかについては見方が分かれています。
多重知能診断はどれくらい正確?
多重知能の検査はあるのかという質問に、ガードナーは「私が支持する検査はない」と答えています。そうした検査が新たなレッテル貼りや偏見につながりうることが、彼が測定の道具づくりから離れた理由の一つで、知能は人を分類するためではなく、大切な内容を学ぶ助けに使うべきだといいます。彼がおそらく最もよく知られているというシアラーのMIDASをはじめ、こうした検査はたいてい人の興味や好みをおおまかに示すだけで、実際の強みは測っておらず、音楽的・空間的・対人的知能がどれほどかを知るには実際の課題が必要だと説明しています(Gardner, n.d.)。
自己報告式の検査は、答える人が自分をよく知っている、つまり内省的知能が高いことを前提にしていますが、多くの人は自分のことを実際よりよく知っていると思っているとガードナーは述べています。ある知能を好んで使うことと、その知能が強いことも違い、音楽が好きでも音楽的知能はふつうということがありえます(Gardner, n.d.)。多重知能の検査だけを調べたものではありませんが、41の研究の154の効果量をまとめたメタ分析では、自分で見積もった認知能力と検査で測った能力の相関はr = .33でした(Freund & Kasten, 2012)。8つの知能それぞれについて自己評価し、知能ごとに2つの実技の検査を受けた200人では、大半の人が大半の領域で自分の能力を高く見積もる傾向があり、自己評価は同じ能力の実際の得点とは全体に弱くしか関係せず、性格の特徴とも同じくらい関係する傾向がありました(Visser ほか, 2008)。2つの研究は抄録で確認しました。
MIDASは、開発者が「知的な傾向」を測る研究にもとづく自己報告式の尺度として紹介した検査です。開発者はこの検査を進路相談に使った事例を紹介し(Shearer & Luzzo, 2009)、米国のある大学で進路探索の授業を受けた学生82人を一般の大学生と比べて、内省的知能の得点が低いことが、進路の迷いが中程度以上の学生の有意な特徴だったと報告しています(Shearer, 2009)。2本の論文は抄録で確認しました。ガードナーも、シアラーがMIDASの得点がほかの指標で測った一部の領域の能力と相関するという証拠を集めはじめており、ある程度の妥当性を示唆すると付け加えています(Gardner, n.d.)。ただし、これらの根拠はすべて検査をつくった開発者自身の研究で、開発者も自分の検証の作業を「有望」と表現しています(Shearer, 2018)。この記事のために調べたなかでは、MIDASの信頼性や再検査の数値は確認できませんでした。
韓国では、幼児用から高校生用までの5種類からなる韓国型の多重知能診断ツールの妥当性が検証されています。シアラーの検査の問題を避け、ガードナーの提案にそうために、達成を測る選択式、能力を測る正誤式、能力と興味を測る自己報告式の問題を組み合わせ、5,585人を年齢・性別・地域別に抽出しました。研究者たちは、下位の知能どうしの相関は知能の独立性という前提を支持し、多重知能は進路として選んだ系列とおおむね関係していたと報告しましたが、問題数が少ないため因子分析や形式の異なる検査どうしの相関分析はできなかったという限界も明らかにしています(Moon & Yoo, 2009)。韓国の多重知能の測定ツール開発の研究29件を検討した研究によると、幼児・児童用のツールの多くは達成の結果を測ろうとしており、最も多く使われた評価の方法は観察でした(Kim ほか, 2013)。大学生用の自己報告式の検査は102問を大学生513人に実施して信頼性が.758〜.885で、61人には別の成人用の多重知能の検査もあわせて実施し、空間的知能を除く7つの領域で高い相関を確かめました(Tae ほか, 2024)。ただしこれは別の多重知能の検査と比べたもので、課題の出来で測った能力と比べたものではありません。3つの研究は抄録で確認しました。
ですから、多重知能診断の結果は、自分が好きで自信があると感じている領域のまとめとして、軽く読むのがよいでしょう。ガードナーは、知能を知るには、その知能を使う課題を実際にどれだけうまくこなすかを直接測る必要があるとし(Gardner, n.d.)、選択式の検査ではさまざまな知能をうまく測れないと述べています。特に幼いうちは知能はかなり変わりやすく、ゲームのような活動は子どもが何を好きかは示しうるが、何が得意かまでは必ずしも示さないといいます(Gardner, 2020)。
多重知能は学習スタイルではない
ガードナーは、多くの人が自分を「学習スタイル」の考え方の生みの親とみなしたり、多重知能と学習スタイルを同じものとして扱ったりすることが予想しなかった結果で、ひどく悩まされたと書いています(Gardner, 2013)。彼によれば、スタイルと知能は根本的に異なる心理学の概念です。スタイルとは、遊び心をもって、あるいは計画的に、のようにさまざまな物事に向かういつものやり方のことで(Gardner, n.d.)、公式サイトも知能はスタイルではないと明言しています(MI Oasis, n.d.-c)。ガードナーは「視覚的知能」や「視覚型の学習者」という言い方にも、知能と感覚のしくみを混同しているとして強く反対しました(Gardner, 2025)。
研究で根拠が乏しいとされているのは、生徒の知能のプロフィールに合わせて教えればよく学べるという「合わせる」主張のほうです。ある論評は、主に多重知能のプロフィールを測る道具が十分でないために、この主張を支える説得力のある根拠がなく、神経神話とされていると整理し、多重知能理論から導かれる教え方は「個別化」と「多元化」の2つだけで、どちらも具体的な処方ではないとしています(Rousseau, 2021)。公式サイトは多元化を、考えや概念、理論、技能をいくつもの方法で教えることだと説明しています(MI Oasis, n.d.-a)。生徒をタイプに分けるのではなく、全員にいくつもの方法で説明しようということです。
学習スタイルに合わせて教えると本当によく学べるのかを直接確かめた実験は、学習スタイルのガイドにまとめています。
授業に使うと効果はある? 教師はどれくらい信じている?
多重知能を生かした授業の効果をまとめたメタ分析3本は、下の2021年のものも含めていずれも、肯定的な結果を報告した研究が多かったとされています(Waterhouse, 2023)。トルコで行われた実験研究をまとめたメタ分析は、大学院の学位論文75本を分析して学業成績に大きな効果量(d = 1.077)を報告し(Baş, 2016)、63の研究を選んだ別のメタ分析もあります(Batdı, 2017)。2つの研究は抄録で確認しました。
そのうち、事前・事後の測定と対照群をそなえた研究だけを集めた2021年の系統的レビュー・メタ分析は、研究の質を検討しました。14か国の幼児から高校生まで3,009人のデータを含む39本の研究は、標本が小さい、別の活動をする比較の群(能動的な対照群)がないなど方法に大きな欠陥があり、結果の測定に使った道具や実際の授業の活動といった重要な情報も足りず、出版や報告の偏りの兆候もみられたため、教室での効果を妥当に評価できませんでした。論文のタイトルも「多重知能理論の妥当な評価はまだできない」です(Ferrero ほか, 2021)。この研究も抄録で確認しました。先ほどの大きな効果量もこうした限界をふまえて読む必要がありますが、多重知能の授業が有害だという意味でもありません。効果をまだ判断できないということです。
多重知能に合わせて教えるべきだという考えは、教師のあいだに広く浸透しています。教育者の神経神話についての調査のうち、多重知能の項目を含むものをまとめた論評によると(Rousseau, 2021)、カナダ・ケベック州の現職教師972人のうち68%が「生徒には論理数学的、音楽的、対人的といった主な知能のプロフィールがあり、授業ではそれを考慮しなければならない」という文にある程度またはとても賛成しました(Blanchette Sarrasin ほか, 2019)。カナダ・米国の現職教師253人のうち、「多重知能にもとづく指導法は研究に支えられていない」という文を正しいと答えたのは24.9%で(Craig ほか, 2021)、米国の特別支援教育の教員志望の学生129人のうち90%は、多重知能に合わせた授業をおそらく、または必ず行うと答えました(Ruhaak & Cook, 2018)。この3つの数値はこの論評で確認しました。ルクセンブルクの教育専門職200人では、英才の判定に多重知能理論を考慮すべきだという問いで71.5%が誤った答えを選びました(Schmitt ほか, 2023)。調査ごとに問いと対象が違うので、数値を直接比べることはできません。教師や教育の専門家も多く信じている考えなので、信じていたとしても恥ずかしがることはありません。
だからといって多重知能理論が役に立たないわけではありません。ガードナーは自分の仕事を、ふつう使われる知能の定義や測り方は狭すぎる可能性が高いことに人々の目を開かせたことだとまとめ(Gardner, 2020)、教育には価値観が深く入り込んでいるので、どんな科学理論もそのまま教育に置き換えることはできないと述べています(Gardner, n.d.)。大切な考えをいくつもの方法で説明する多元化は、生徒をタイプに分けなくても使えるやり方です(MI Oasis, n.d.-a)。
多重知能についての5つの誤解
誤解1 多重知能診断で進路や適性がわかる。公式サイトは、自分の知能を知っても人生の道筋が決まるわけではなく、知能から進路の選択を予測すべきではないこと、指紋から知能がわかるという考えには根拠がないことを明言しています(MI Oasis, n.d.-c)。自己報告式の検査は興味や好みに近く(Gardner, n.d.)、韓国の検査で報告された進路の系列との関係も、回答時点での進路選択の系列との関係であって、将来の進路を予測した結果ではありません(Moon & Yoo, 2009)。興味の検査と強みの検査の違いはRIASECと強みテストの比較にまとめています。
誤解2 子どもの得意な知能を見つけて、それだけを伸ばすべきだ。ガードナーは、知能を人の分類に使わないよう求め、意欲があり、周りの文化がその知能を大切にし、頼れる人や教材・プログラムといった資源が十分にあれば、誰でも知能を伸ばせると述べています(Gardner, n.d.)。特に幼いうちは知能はかなり変わりやすいといいます(Gardner, 2020)。ガードナーが検査づくりをためらった理由として、子どもを「音楽は得意だが空間は苦手」といった新しい枠にはめたくなかったことが紹介されています(Rousseau, 2021)。
誤解3 IQは一つの能力しか測らないので間違っている。87の研究をまとめたメタ分析でも、さまざまな能力どうしには正の相関があり、この研究は一般知能(g)を一番上に置き、その下に幅広い能力を並べる構造を使っています(Bryan & Mayer, 2021)。ガードナー自身も、gの存在ではなく、その範囲と説明力を問うています(MI Oasis, n.d.-c)。多重知能とIQは、どちらか一方だけが正しいというより、知能をどれだけ広くとらえるかについての異なる見方です。
誤解4 多重知能は脳科学で確かめられた。脳の研究をまとめたレビューは検査の開発者が共著者に入ったもので(Shearer, 2018)、批判者は、それが人が知能を使っているあいだの脳を測った研究ではないため妥当性の研究にはならず、知能ごとの脳の基盤を直接探した研究者はいないと指摘しています(Waterhouse, 2023)。ガードナーも2025年の文章で、重要な課題が特定の神経基盤と結びつくとは限らないと書いていますが、これを多重知能の新たな証拠として紹介しています(Gardner, 2025)。
誤解5 人は8つの知能タイプのどれかに属する。多重知能理論は人を一つの知能タイプに分ける理論ではなく、ガードナーは知能を人を分類する手段に使わないよう求めています(Gardner, n.d.)。能力検査でも、知能どうしは別々に動くより、そろって上下する傾向がみられました(Visser, 2005)。「私は音楽的知能タイプ」という言い方は、理論にも研究結果にも合いません。
よくある質問
Q. 多重知能診断の結果はどう読めばいいですか? A. 自分が好きで自信があると感じている領域のまとめとして、軽く読んでください。ガードナーは、こうした検査は興味や好みをおおまかに示すだけで、実際の強みは測っていないといいます(Gardner, n.d.)。多重知能の検査に限った結果ではありませんが、41の研究をまとめたメタ分析で、自分で見積もった認知能力と検査で測った能力の相関もr = .33でした(Freund & Kasten, 2012)。結果を進路や子どものタイプを決める根拠にはしないでください。
Q. うちの子はどの知能が強いのですか? 検査を受けるべきですか? A. 質問紙やゲームではわかりにくいです。ガードナーは、知能を知るには課題を実際にどれだけうまくこなすかを直接測る必要があるとし(Gardner, n.d.)、幼いうちは知能はかなり変わりやすく、ゲームは子どもの好きなことは示しうるが、得意なことまでは必ずしも示さないといいます(Gardner, 2020)。検査の結果で子どもを一つのタイプに決めつけないほうがよいでしょう。
Q. 9番目の知能、実存的知能はありますか? A. ガードナーが確認した知能ではありません。ガードナーは「大きな問い」を扱う実存的知能を可能性として挙げましたが(Gardner, n.d.)、今は候補を厳密に判定しておらず、判断は保留のままだとしています(Gardner, 2020)。
Q. EQ(感情知能)は多重知能から生まれたのですか? A. そうとは言いにくいです。ガードナーは「感情知能」は自分の用語ではなく、ダニエル・ゴールマンの本で広まったとし、社会的知能は対人的知能と、感情知能は内省的知能と似たところがあると説明しています(Gardner, n.d.)。感情知能の枠組みは、1990年にサロベイとメイヤーが、自分と他人の感情を正確に評価し表現することに役立つと考えられる技能のまとまりとして示しました(Salovey & Mayer, 1990)。この論文は抄録で確認しました。感情知能と成績の関係はIQテストのガイドにまとめています。感情知能のさまざまなモデルとEQテストの正確さは感情知能のガイドにまとめています。
Q. 多重知能とIQはどう違うのですか? A. ガードナーは、IQ検査は主に言語的知能と論理数学的知能を、ときには空間的知能も測るとみており(MI Oasis, n.d.-a)、多重知能理論は知能をもっと広くとらえようと主張しています。ただし8つの領域の能力検査では得点がそろって上下する傾向がみられ(Visser, 2005)、ガードナーの理論を直接検証したものではありませんが、能力どうしの相関をまとめたメタ分析でも能力は互いに関係していました(Bryan & Mayer, 2021)。
Q. では多重知能理論は役に立たないのですか? A. 理論が正しいかどうかと、授業で効果があるかどうかは分けて考える必要があります。理論そのものについては、いまも妥当な科学理論だとする論評(Rousseau, 2021)と、退けるべきだとする批判(Waterhouse, 2023)があり、多重知能の授業の効果は研究の質の問題から、まだ妥当に評価できません(Ferrero ほか, 2021)。大切な考えをいくつもの方法で説明するときの参考にする程度が無難です。
参考文献:MI Oasis (n.d.-a), A beginner’s guide to the theory of multiple intelligences (MI), https://www.multipleintelligencesoasis.org/a-beginners-guide-to-mi (retrieved 28 October 2026); Gardner, H. (n.d.), FAQ [PDF], https://www.howardgardner.com/s/FAQ.pdf (retrieved 28 October 2026); Gardner, H. (2025, September 9), Multiple intelligences: New strands of evidence from neuroscience [blog post], MI Oasis, https://www.multipleintelligencesoasis.org/blog/2025/9/4/multiple-intelligences-new-strands-of-evidence-from-neuroscience; MI Oasis (n.d.-b), The components of MI, https://www.multipleintelligencesoasis.org/the-components-of-mi (retrieved 28 October 2026); Shearer, B. (2018), Multiple intelligences in teaching and education: Lessons learned from neuroscience, Journal of Intelligence, 6(3), 38, https://doi.org/10.3390/jintelligence6030038; Gardner, H. (2020), Questions [web page], MI Oasis, https://www.multipleintelligencesoasis.org/questions (retrieved 28 October 2026); Gardner, H. (2013, October 16), Multiple intelligences are not learning styles, Harvard Graduate School of Education (first published in The Washington Post), https://www.gse.harvard.edu/ideas/news/13/10/multiple-intelligences-are-not-learning-styles; Gardner, H. (2026, March 19), Multiple intelligences in 2026: Responses to questions posed by a scholar from China [blog post], MI Oasis, https://www.multipleintelligencesoasis.org/blog/2026/2/12/multiple-intelligences-question-and-answer; MI Oasis (n.d.-c), Malpractices, https://www.multipleintelligencesoasis.org/malpractices (retrieved 28 October 2026); Waterhouse, L. (2006a), Multiple intelligences, the Mozart effect, and emotional intelligence: A critical review, Educational Psychologist, 41(4), 207-225, https://doi.org/10.1207/s15326985ep4104_1; Gardner, H., & Moran, S. (2006), The science of multiple intelligences theory: A response to Lynn Waterhouse, Educational Psychologist, 41(4), 227-232, https://doi.org/10.1207/s15326985ep4104_2; Waterhouse, L. (2006b), Inadequate evidence for multiple intelligences, Mozart effect, and emotional intelligence theories, Educational Psychologist, 41(4), 247-255, https://doi.org/10.1207/s15326985ep4104_5; Visser, B. (2005), Beyond g: Putting multiple intelligences theory to the test [master’s thesis, Brock University], http://hdl.handle.net/10464/2327; Waterhouse, L. (2023), Why multiple intelligences theory is a neuromyth, Frontiers in Psychology, 14, 1217288, https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.1217288; Almeida, L. S., Prieto, M. D., Ferreira, A. I., Bermejo, M. R., Ferrando, M., & Ferrándiz, C. (2010), Intelligence assessment: Gardner multiple intelligence theory as an alternative, Learning and Individual Differences, 20(3), 225-230, https://doi.org/10.1016/j.lindif.2009.12.010; Bryan, V. M., & Mayer, J. D. (2021), Are people-centered intelligences psychometrically distinct from thing-centered intelligences? A meta-analysis, Journal of Intelligence, 9(4), 48, https://doi.org/10.3390/jintelligence9040048; Rousseau, L. (2021), “Neuromyths” and multiple intelligences (MI) theory: A comment on Gardner, 2020, Frontiers in Psychology, 12, 720706, https://doi.org/10.3389/fpsyg.2021.720706; Freund, P. A., & Kasten, N. (2012), How smart do you think you are? A meta-analysis on the validity of self-estimates of cognitive ability, Psychological Bulletin, 138(2), 296-321, https://doi.org/10.1037/a0026556; Visser, B. A., Ashton, M. C., & Vernon, P. A. (2008), What makes you think you’re so smart? Measured abilities, personality, and sex differences as correlates of self-estimates of multiple intelligences, Journal of Individual Differences, 29(1), 35-44, https://doi.org/10.1027/1614-0001.29.1.35; Shearer, C. B., & Luzzo, D. A. (2009), Exploring the application of multiple intelligences theory to career counseling, The Career Development Quarterly, 58(1), 3-13, https://doi.org/10.1002/j.2161-0045.2009.tb00169.x; Shearer, C. B. (2009), Exploring the relationship between intrapersonal intelligence and university students’ career confusion: Implications for counseling, academic success, and school-to-career transition, Journal of Employment Counseling, 46(2), 52-61, https://doi.org/10.1002/j.2161-1920.2009.tb00067.x; Moon, Y.-L., & Yoo, K.-J. (2009), Validation of Korean diagnostic scale of multiple intelligence [in Korean], Korean Journal of Educational Psychology, 23(3), 645-663, https://www.kci.go.kr/kciportal/ci/sereArticleSearch/ciSereArtiView.kci?sereArticleSearchBean.artiId=ART001379769; Kim, D.-i., Lee, Y., Nam, J. E., Oh, J.-W., Lee, Y., Lee, S. G., & Kim, M. C. (2013), Trends in the development of multiple intelligences assessment tools: Specifically for young children [in Korean], The Journal of Yeolin Education, 21(4), 395-416, https://www.kci.go.kr/kciportal/ci/sereArticleSearch/ciSereArtiView.kci?sereArticleSearchBean.artiId=ART001821824; Tae, J., Park, S., Park, H., & Lee, J. (2024), Development and validation of multiple intelligence test for university students [in Korean], The Journal of Creativity Education, 24(4), 95-114, https://doi.org/10.36358/JCE.2024.24.4.95; Baş, G. (2016), The effect of multiple intelligences theory-based education on academic achievement: A meta-analytic review, Educational Sciences: Theory & Practice, https://doi.org/10.12738/estp.2016.6.0015; Batdı, V. (2017), The effect of multiple intelligences on academic achievement: A meta-analytic and thematic study, Educational Sciences: Theory & Practice, https://doi.org/10.12738/estp.2017.6.0104; Ferrero, M., Vadillo, M. A., & León, S. P. (2021), A valid evaluation of the theory of multiple intelligences is not yet possible: Problems of methodological quality for intervention studies, Intelligence, 88, 101566, https://doi.org/10.1016/j.intell.2021.101566; Blanchette Sarrasin, J., Riopel, M., & Masson, S. (2019), Neuromyths and their origin among teachers in Quebec, Mind, Brain, and Education, 13(2), 100-109, https://doi.org/10.1111/mbe.12193; Craig, H. L., Wilcox, G., Makarenko, E. M., & MacMaster, F. P. (2021), Continued educational neuromyth belief in pre- and in-service teachers: A call for de-implementation action for school psychologists, Canadian Journal of School Psychology, 36(2), 127-141, https://doi.org/10.1177/0829573520979605; Ruhaak, A. E., & Cook, B. G. (2018), The prevalence of educational neuromyths among pre-service special education teachers, Mind, Brain, and Education, 12(3), 155-161, https://doi.org/10.1111/mbe.12181; Schmitt, A., Wollschläger, R., Blanchette Sarrasin, J., Masson, S., Fischbach, A., & Schiltz, C. (2023), Neuromyths and knowledge about intellectual giftedness in a highly educated multilingual country, Frontiers in Psychology, 14, 1252239, https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.1252239; Salovey, P., & Mayer, J. D. (1990), Emotional intelligence, Imagination, Cognition and Personality, 9(3), 185-211, https://doi.org/10.2190/DUGG-P24E-52WK-6CDG
気になっていそうな友だちや家族に、この記事を送ってみましょう。