こころのガイド
うつ病の症状:研究でわかった気分・体・考えのサインと人による違い
うつ病の症状をWHOの基準と研究から整理。悲しみだけでないいらだちや空虚感、睡眠や痛みなど体のサイン、集中力、年齢や性別による違い、悲嘆との区別まで。
うつ病の症状は人によって違って見えます
うつ病は、ただ気分が落ち込む日とは違います。世界保健機関(WHO)は、抑うつ気分(悲しい、いらいらする、むなしい)や、喜び・興味の喪失が、一日の大半、ほぼ毎日、少なくとも2週間続き、集中力の低下、過度の罪悪感、将来への絶望、睡眠や食欲の変化、強い疲れなどの症状をともなう状態だと説明しています(WHO, 2026)。診断基準(DSM-5の9つの症状のうち5つ以上)はバーンアウトとうつ病の違いにまとめています。
このガイドでは、それらの症状が実際にどのような形で現れるかを扱います。同じうつ病でも、現れ方は人によってかなり違います。米国の外来患者3,703人の症状の組み合わせを数えた研究では、1,030通りの組み合わせが見つかり、最も多い組み合わせでも1.8%にすぎませんでした(Fried & Nesse, 2015)。下の内容が自分の経験にぴったり当てはまらなくても、逆にいくつか当てはまっても、それだけでは判断できません。診断は専門家との面接で行われます。
気分:悲しみだけでなく、いらだちや空虚感も
うつ病の中心には二つの症状があります。一つは抑うつ気分、もう一つは、ふだん楽しんでいたことへの興味や喜びがはっきり減ることです。診断にはこのどちらか少なくとも一つが必要です。国際疾病分類(ICD-11)は、興味の喪失に性欲の低下が含まれることもあると記しています(WHO, 2024)。
抑うつ気分は、いつも悲しみとして感じられるわけではありません。ICD-11によると、人によっては主にいらだちとして、あるいは感情が感じられない「空虚感」として現れ、その人のふだんの状態からはっきり変わっていれば抑うつ気分にあたるとみなせるとしています(WHO, 2024)。いらだちや怒りは、うつ病によく見られる症状でもあります。1978〜81年に米国の大学病院5か所で、抑うつエピソードの最中に研究に参加した536人のうち54.5%に、表に出るいらだちや怒りが見られました(Judd ほか, 2013)。
将来がよくならないと感じる絶望感も大事なサインです。DSM-5は抑うつ気分の説明に絶望感を加え(Uher ほか, 2014)、ICD-11は絶望感を独立した症状として挙げています(WHO, 2024)。
体:睡眠、食欲、疲れ、痛み
うつ病は体にも現れます。寝つけない、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまうこともあれば、反対に眠りすぎることもあります。臨床サンプルでは、うつ病の患者の約4分の3に不眠の症状があり、過眠は30歳未満の患者の約40%、50代の患者の約10%に見られました(Nutt ほか, 2008)。
食欲は減ることも増えることもあり、体重が減ったり増えたりします。疲れもよく見られ、ICD-11はほんの少しの労力で目立って疲れてしまうことを症状として挙げています。話し方や動きが遅くなる、あるいは反対に落ち着かずそわそわするといった、周りから見てわかる変化もあります(WHO, 2024)。
頭痛、便秘、だるさ、腰の痛みのような、原因のはっきりしない体の不調で、まず病院を訪れる人も少なくありません。WHOがプライマリケア施設15か所(14か国)で行った研究では、大うつ病の基準を満たした患者1,146人のうち69%が受診のときに体の症状だけを話していました(施設によって45〜95%)。それでも、直接たずねられて抑うつ的な気持ちまで否定した人は11%でした。データは1991〜92年に集められたものです(Simon ほか, 1999)。体の不調が続くのに検査で原因が見つからないなら、気分のほうにも目を向けてみる価値があります。反対に、甲状腺の病気や一部の薬のように、うつ病に似た症状を起こす原因もあるので、診察で一緒に確かめてもらうとよいでしょう(NIMH, 2024)。
考え:集中、決断、自責
考え方の変化もうつ病の一部です。集中できない、ささいなことも決められない、自分には価値がないという思いや過度の罪悪感、死についての考えがくり返し浮かぶこともあります(WHO, 2024)。同じコンピューター式の認知検査(CANTAB)を使った研究を集めたメタ分析では、うつ病の人は比較群より実行機能、記憶、注意に中程度の低下が見られ(d = −0.34〜−0.65)、症状がおさまったあとも実行機能と注意の低下は中程度に残っていました(d = −0.52〜−0.61)。記憶の差は、症状がおさまったあとには統計的に意味のあるものではありませんでした(Rock ほか, 2014)。
長く残る症状もあります。最初にうつ病があったプライマリケアの患者267人を3年間追跡した研究では、認知の問題、気力のなさ、睡眠の問題は、抑うつエピソードの期間の85〜94%の時間に見られ、症状が軽くなった期間にも39〜44%の時間残っていました(Conradi ほか, 2011)。気分がよくなっても、集中力や気力の回復が遅れるのは珍しいことではありません。
集中力の問題は、日常生活への影響も大きい症状です。米国の外来患者3,703人を分析した研究では、悲しい気分と集中力の問題が生活機能の低下と最も強く結びついており、仕事、家事、社会的な活動、個人的な活動、親しい関係の五つの領域すべてで、最も支障の大きい症状の一つでした(Fried & Nesse, 2014)。
文化、性別、年齢による違い
文化によっては、気分の変化が体の症状として表されやすいことがあります(WHO, 2024)。韓国の研究でも、抑うつ気分が表に出にくい傾向が報告されています。同じ基準で診断された韓国の外来患者1,592人と米国の外来患者3,744人を比べた研究では、全体の重症度をそろえても、韓国の患者は抑うつ気分と罪悪感の点数が低く、心気症(健康への心配)と自殺関連の点数が高くなっていました。研究者たちは、このために診断が遅れるおそれがあるとしています(Jeon ほか, 2014)。18〜54歳の韓国人5,349人と米国人7,423人の地域調査を比べた研究でも、うつ病のある韓国人は、気力のなさや集中しにくさをより多く、抑うつ気分や死についての考えをより少なく報告していました(Chang ほか, 2008)。ただし、どちらの研究も10年以上前に発表されたもので、対象(外来患者と地域住民)も違い、自殺に関する結果は食い違っています。火病(ファビョン)は、長く我慢してたまった怒りが胸のつかえや体のほてりといった体の症状として現れる韓国の文化的な概念で、うつ病と重なる点も違う点もあり、別の記事で扱っています。
ICD-11は、うつ病性障害の生涯有病率は女性が男性の約2倍だと記しています(WHO, 2024)。90か国以上の代表的なサンプルを集めたメタ分析でも、女性の大うつ病のオッズ比は男性と比べて1.95で、差は12歳ごろから現れ、13〜15歳で最も大きくなりました(Salk ほか, 2017)。男性のうつ病は怒りとして現れるとよく言われます。ただ、性差を集めたメタ分析(32本、108,260人)で確認された差は小さなものでした。うつ病の男性は飲酒・薬物の問題(g = 0.26)と危険な行動・衝動の抑えにくさ(g = 0.58)を、女性は抑うつ気分、食欲・体重の変化、睡眠の問題をより多く報告していました(Cavanagh ほか, 2017)。いらだちや怒りはうつ病でよく見られ、先ほどの研究では男女合わせて患者の半数あまりにありました(Judd ほか, 2013)。出産後に始まったうつは産後うつで、体重や体型への心配から食べることをコントロールしてしまう場合は摂食障害で、それぞれ別に扱っています。月経前のたびにくり返す落ち込みは月経前症候群(PMS)・PMDDで扱っています。
若い人では、うつ病が悲しみよりもいらだちとして現れることがあり、診断基準も子どもと青年ではこれを認めています(NIMH, 2024)。ただ、米国の若者1,420人を追跡した研究で9〜16歳のうちにうつ病の基準を満たした例を見ると、抑うつ気分だけの例が58.7%、抑うつ気分といらだちの両方がある例が35.6%で、いらだちだけの例は5.7%と少数でした(Stringaris ほか, 2013)。ICD-11も、いらだちそれ自体は抑うつエピソードを示すものではないと記しています。ICD-11によると、過眠と過食は大人より青年に多く見られます(WHO, 2024)。
高齢期のうつ病は、若い世代と一部だけ違います。11本の研究を集めたメタ分析では、高齢のうつ病患者は若い患者より、焦燥感、健康への心配、全身や消化器の体の症状が多く、罪悪感と性的な関心の喪失は少なめでした(Hegeman ほか, 2012)。記憶の問題が目立つこともあり、認知症と見分ける必要があります(WHO, 2024)。年齢によるよくある物忘れと認知症のサインの違いは物忘れのガイドにまとめています。韓国の2021年精神健康実態調査では、過去1年のうつ病性障害の有病率は70〜79歳が3.1%で、年代のなかで最も高くなっていました(国立精神健康センター, 2023)。
悲しみや悲嘆とはどう違う?
つらい出来事のあとに気分が落ち込むのは自然な反応です。ICD-11は、離婚や失業のような大きな出来事のあとの抑うつ気分はよくあることで、抑うつエピソードは症状の重さ、広がり、続く期間によってそれと区別されると説明しています。ただし基準を満たすなら、きっかけとなる出来事があっても抑うつエピソードとみなすと付け加えています(WHO, 2024)。
大切な人を亡くしたあとの悲嘆も、うつ病と似て見えることがあります。米国精神医学会は二つの違いを挙げています。悲嘆では、つらい感情が故人とのよい思い出とまじりながら波のように押し寄せますが、うつ病では気分と考えがほとんどいつも否定的です。悲嘆では自尊心はたいてい保たれますが、うつ病では自分をむしばむような無価値感や自己嫌悪がよく見られます(APA, 2013)。死別を経験した人の多くは深い悲しみを感じますが、大うつ病の基準を満たすのは一部です(Zisook & Shear, 2009)。
そのため、死別のあとでも、無価値感、故人のもとへ行きたいという気持ちとは別の自殺の考え、全体的な機能の低下があるなら、うつ病も視野に入れる必要があります(APA, 2013)。ICD-11も、喪失のあと、よい気分になる時間がまったくないまま抑うつ症状が1か月以上続くなら、悲嘆に抑うつエピソードが重なっている可能性があるとしています(WHO, 2024)。故人のもとへ行きたいという気持ちも含めて、死についての考えが続いたり、抱えきれなかったりするなら、一人で抱えずにすぐ話してください。連絡先は最後のよくある質問にあります。
韓国の現状と治療、PHQ-9でのふり返り
韓国の2021年精神健康実態調査は、18〜79歳の成人5,511人に調査員が対面で診断面接(CIDI)を行いました。大うつ病性障害を生涯に一度でも経験した割合は7.7%(男性5.7%、女性9.8%)、過去1年にうつ病性障害があった割合は1.7%(男性1.1%、女性2.4%)でした(保健福祉部, 2021)。世界では成人の5.2%がうつ病を抱え、約3億2,200万人がうつ病だと推定されています(WHO, 2026)。WHOの数字は世界疾病負担(GBD)研究のモデル推計で、韓国の数字は診断面接の調査なので、そのまま比べることはできません。質問票の点数で見た韓国の成人の分布はうつ病セルフチェックの平均点にまとめています。
助けを受けている人は多くありません。同じ調査で、過去1年にうつ病性障害があった人のうち、その年に精神保健サービスを利用した人は28.2%でした。10人のうち7人ほどは専門家にかかっていない計算です。ただ、調査は新型コロナウイルスの流行中に行われ、この数字は少ない人数から出たものなので、おおよその目安として見るのがよいでしょう(保健福祉部, 2021; 国立精神健康センター, 2023)。WHOは、高所得国でもうつ病のある人の約3分の1しか治療を受けていないとしています(WHO, 2026)。
治療には効果があります。成人の大うつ病性障害の短期治療を調べた無作為化比較試験522本(116,477人)を集めたネットワーク・メタ分析では、調べた21種類の抗うつ薬はすべてプラセボより効果があり、効果の大きさはおおむね控えめでした(Cipriani ほか, 2018)。成人のうつ病に対する心理療法の試験331本(34,285人)を集めた分析でも、認知行動療法や対人関係療法をはじめとする主な心理療法はどれも通常のケアや待機群より効果があり、療法どうしの差はほとんどありませんでした(Cuijpers ほか, 2021)。症状がいくつかしかなくても、治療が役立つことがあります(NIMH, 2024)。
mind.ioのうつのセルフチェック(PHQ-9)は、診断基準の9つの症状を9つの質問にしたもので、この2週間にそれぞれの症状がどのくらいあったかを0〜3点で答えると、合計0〜27点を示します(Kroenke ほか, 2001)。0〜4点は「うつ症状はほとんどなし」、5〜9点は「軽いうつ症状」、10〜14点は「中程度のうつ症状」、15〜19点は「やや重いうつ症状」、20〜27点は「重いうつ症状」と読みます。
開発研究では、精神保健の専門家が米国のプライマリケアの患者580人に電話で面接して確かめたところ、10点以上で大うつ病を感度88%、特異度88%で見分けられました(Kroenke ほか, 2001)。そのためmind.ioは、合計が10点以上のとき、または9問目(死や自分を傷つけることについての考え)に「全くない」以外を答えたときに、専門家に話してみることをすすめています。点数にかかわらず、自分を傷つけたいという気持ちがあるなら、一人で抱えずにすぐに「よりそいホットライン」(0120-279-338、24時間・無料)に連絡してください。セルフチェックは診断ではありません。診断では、体の病気、通常の悲嘆、躁状態になったことがあるかどうかも確かめます(Kroenke ほか, 2001)。点数が低くても、ここに書いた変化が2週間以上続き、日常がつらいなら相談してみてください。
よくある質問
Q. うつ病の初期症状は何ですか? A. 誰にでも決まった初期症状というものはありません。症状の組み合わせは人によって大きく違い(Fried & Nesse, 2015)、気分よりも体の不調のためにまず病院を訪れる人も少なくありません(Simon ほか, 1999)。こうした変化が2週間以上ほぼ毎日続き、日常に支障が出ているなら、誰かに相談するときです。それより短くてもつらければ、いつ相談してもかまいません。
Q. ただ落ち込んでいるのと、うつ病はどう違いますか? A. つらい出来事のあとの落ち込みは、よくある自然な反応です。うつ病は、症状がより重く、いくつも重なり、2週間以上ほぼ毎日続き、日常にはっきり支障が出る点で違います(WHO, 2024)。
Q. 体の症状しかなくても、うつ病のことはありますか? A. あります。WHOのプライマリケア研究では、うつ病の患者の11%が、直接たずねられても抑うつ的な気持ちを否定しました(Simon ほか, 1999)。ただし甲状腺の病気や一部の薬のように似た症状を起こす原因もあるので、診察もあわせて受けてください(NIMH, 2024)。
Q. うつ病は治療でよくなりますか? A. はい、効果が確かめられた治療があります。抗うつ薬も主な心理療法も、無作為化比較試験で効果が確かめられています(Cipriani ほか, 2018; Cuijpers ほか, 2021)。WHOは心理療法を最初の治療としてすすめ、中等度以上のうつ病では抗うつ薬を組み合わせることもあるとしています(WHO, 2026)。
Q. 死にたいという気持ちがあります。 A. 一人で抱えないでください。すぐに相談窓口(よりそいホットライン 0120-279-338、24時間・無料)に連絡してください。今すぐ命の危険があるときは、119(救急)または110(警察)に連絡してください。
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