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解釈ガイド

成長マインドセットは本当に効果がある? 研究からみるマインドセットと成績

成長マインドセットと固定マインドセットとは? ドゥエックの理論とよくある誤解、成績との関連、大規模実験、2023年のメタ分析論争、親や教師へのヒントを研究から整理。

成長マインドセットとは:能力は伸ばせるという信念

「成長マインドセット(growth mindset)」は、知能などの能力は努力や学びによって伸ばせるという考え方、「固定マインドセット(fixed mindset)」は、能力は決まっていてほとんど変わらないという考え方を指します。米国の心理学者キャロル・ドゥエックが研究してきた概念で、学術的には「暗黙の理論(implicit theories)」と呼ばれ、固定マインドセットは実体理論(entity theory)、成長マインドセットは増大理論(incremental theory)とも呼ばれます(Sisk ほか, 2018)。

この理論は動機づけの研究から始まりました。ドゥエックとレゲットは1988年の論文で、人が持つ暗黙の理論がどんな目標を追うかを方向づけ、その目標が、困難に直面したときに粘り強く取り組む「熟達志向」の反応か、あきらめてしまう「無力」な反応につながるというモデルを示しました(Dweck & Leggett, 1988)。1995年の論文では、能力を固定的なものと見る人は失敗を「頭が悪いから」のような固定的な特性で説明し、変えられると見る人は努力ややり方のような、より具体的な原因で説明する傾向があるとまとめています(Dweck ほか, 1995)。

ドゥエックと共同研究者のデビッド・イェーガーは、マインドセット理論は学業成績全般を説明する理論ではなく、困難や挫折にどう反応するかについての理論であり、成績の差の大部分を説明すると主張するものではないと強調しています。そのため、マインドセットと成績の関連は、とくに困難に直面している人で見られると予測します。マインドセットは二者択一ではなく、固定から成長までの連続体の上にあり、同じ人でも時によって位置が変わりうると考えられています。研究ではふつう、「人は一定の量の知能を持っていて、それを変えるためにできることはあまりない」といった文にどれだけ同意するかで測ります(Yeager & Dweck, 2020)。

この記事では、マインドセットが成績とどれくらい関連しているのか、マインドセットを変える短い授業で本当に成績が上がるのか、2023年に発表された二つのメタ分析がなぜ異なる結論に至ったのかを、双方の主張をそのまま示しながら整理し、親や教師、自分自身にとって何が言えるのかを根拠の強さとあわせて紹介します。研究の多くは生徒・学生の学業成績を扱っています。mind.ioにはマインドセットの検査はありません。長期的な目標に向かって粘り強く取り組む傾向であるグリット(grit)は、グリットのガイドで別に扱っています。

よくある誤解:努力をほめること、「偽りの成長マインドセット」

成長マインドセットが広く知られるにつれて、誤解も広がりました。ドゥエックは2015年に米国の教育専門紙「エデュケーション・ウィーク(Education Week)」に寄せた文章で、最もよくある誤解として、成長マインドセットを「努力」と同じものと考えることを挙げました。努力は大切ですが、行き詰まったときに新しいやり方を試したり、ほかの人に助言を求めたりすることも必要だというのです。学べていないのに気分をよくさせるために「よく頑張ったね! ベストを尽くしたね!」とだけほめることも問題として挙げ、行き詰まっている生徒には、ここまでの取り組みを認めたうえで「これまでに何を試したか、次に何を試せるか話してみよう」と付け加えられると提案しています(Dweck, 2015)。

ドゥエックは、成長マインドセットは学力の差を隠すためではなく縮めるためのものだったとし、生徒の今の到達度を正直に伝え、一緒に何かをしていくことだと書いています。「あの子は固定マインドセットだから」と、学べない理由を子どものせいにする使い方にも注意を促しました。また、オーストラリアの同僚スーザン・マッキーが「偽りの成長マインドセット(false growth mindset)」と呼んだ現象、つまり成長マインドセットを持っていると言いながら言葉や行動はそうなっていない状態を紹介しています。ドゥエックの処方は、誰もが固定マインドセットと成長マインドセットの混ざり合ったもので、これからもおそらくそうだと認めようというものでした。固定マインドセットを「禁止」すると、かえって偽りの成長マインドセットが生まれるというのです。当初は努力ばかりを強調しすぎたかもしれない、成長マインドセットを身につけることを簡単すぎるように語ったかもしれない、という反省も添えています(Dweck, 2015)。

経済協力開発機構(OECD)も、15歳を対象とする国際学習到達度調査(PISA)2018の報告書で、ドゥエックの説明を引いて同様の誤解をまとめています。成長マインドセットは心の広さや柔軟さと同じではなく、努力をほめて報いることだけでもなく、どんな目標でも達成できると子どもに言うことだけでもない、というものです。生徒が絶えず評価されることなく、必要な支援とフィードバックを受けられる学習環境が必要で、教育者の役割が認められないと、必要な資源を持たない生徒にまで失敗の責任がすべて負わされることになると書いています(OECD, 2019)。

研究者のいう成長マインドセットは、能力が大きく、あるいは簡単に変わるという主張でもありません。イェーガーとドゥエックは、成長マインドセットの介入は能力が伸びる可能性を扱うだけで、変化の大きさや容易さを約束するものではなく、能力は重要ではないとか、生徒によって違わないとか言うものでもないと説明しています。「頑張ったから成功したね」と伝えることは、成功の原因をどこに帰属させるかを変える介入であって、成長マインドセットの介入ではないとも区別しています(Yeager & Dweck, 2020)。知能だけでなく性格などほかの特性についてもマインドセットを持ちうると考えられていますが(Yeager & Dweck, 2020)、性格が実際にどれくらい変わるのかは性格は変わるのかで研究をもとに整理しています。知能検査の点数(IQ)が実際にどれくらい安定していて、何によって変わるのかはIQテストのガイドにまとめています。

マインドセットと成績はどれくらい関係しているのか

マインドセットと学業成績の関係を調べた研究をまとめた2018年のメタ分析は、273の効果量(365,915人)を分析しました。平均の相関はr = .10で、研究チームは「非常に弱い」と評価しました。効果量の58%はゼロと統計的に違いがなく、6%はむしろ成長マインドセットが低い成績と有意に関連する向きでした。年齢別では子どもでr = .19、青年でr = .15でしたが、成人ではr = .02で有意ではありませんでした。この分析では、学業上のリスクや社会経済的地位によって関連の大きさに有意な違いはありませんでした(Sisk ほか, 2018)。

マインドセット理論を主導するイェーガーとドゥエックは、平均が小さく出たのは研究間の違いが非常に大きく、ごく小規模な研究にも大規模な研究と同じくらいの重みがかかったためだと反論しました。二人が挙げた大規模なデータでは、米国カリフォルニア州の大規模学区の4〜7年生300,629人で、成長マインドセットが英語(国語)の得点とr = .28、数学の得点とr = .27、チリの公立学校の10年生168,533人で試験の得点とr = .34の相関を示したといいます(Yeager & Dweck, 2020)。一方、中国の小学5・6年生433人を調べた研究では、マインドセットと成績のあいだに有意な相関はありませんでした(Li & Bates, 2019。Yeager & Dweck, 2020による紹介)。イェーガーとドゥエックは、小規模な便宜的標本であることや項目の翻訳といったほかの理由とあわせて、マインドセットと成績の関連がもともと弱い文化圏での結果である可能性を挙げています。

PISA 2018は、多くの国の15歳に「あなたの知能は、あなたがあまり変えることのできないものだ」という文に同意するかを尋ねました。OECD加盟国の平均で、生徒の37%がこの文に同意しました。同意しなかった生徒(成長マインドセット側)は、同意した生徒より読解力の得点が41点高く、生徒と学校の社会経済的背景を考慮しても32点高くなっていました。報告書によれば、この差は日本で22点、韓国で17点で、香港では関連がなく、北京・上海・江蘇・浙江(中国)ではむしろ逆向きでした。韓国は、読解力がOECD平均より高いにもかかわらず、成長マインドセットの生徒の割合が比較的小さい国の一つに挙げられています(OECD, 2019)。

OECDは、PISAのデータでは原因と結果を見分けられないと明言しています。成長マインドセットがよい成績を生んだのではなく、成績のよい生徒が自分の知能が伸びるのを経験してきたからそう答えた可能性もあるというのです。同じ報告書では、成長マインドセットは課題をやり遂げようとする意欲、自己効力感、学習目標とは正の関連、失敗への恐れとは負の関連を示しました(OECD, 2019)。相関研究をまとめると、マインドセットと成績はおおむね同じ向きに関連していますが、その大きさは研究や国によって大きく異なります。

マインドセットの授業で成績は上がるのか:米国の全国実験とその後

マインドセットが成績と関連していることと、マインドセットを変えれば成績が上がることは、別の問題です。同じ2018年の論文の2つ目のメタ分析は、成長マインドセットの介入研究から43の効果量(57,155人)を集め、平均の効果はd = 0.08と小さいものでした。社会経済的地位の低い家庭の生徒(効果量7つ)ではd = 0.34、学業上のリスクが高い生徒(効果量8つ)ではd = 0.19と大きめでしたが、研究チームは、効果量が少なく標本も小さいうえ、リスクの高い生徒とそうでない生徒の差も有意ではなかったため、慎重に解釈するよう求めています。介入のあと実際にマインドセットが変わったかを確かめた研究のほぼ半数(46%)では有意な変化がなく、効果はむしろ変化が確認されなかった研究でだけ、境界線上の水準で有意でした(Sisk ほか, 2018)。

代表的な大規模検証が、2019年に学術誌『ネイチャー』に掲載された米国の「学習マインドセット全国研究」です。米国の一般的な公立高校を代表するように選ばれた65校の9年生(14〜15歳)12,490人を生徒単位で無作為に割り付け、一方には成長マインドセットのオンライン授業を、もう一方には知能についての信念は扱わない脳の働きについての授業を受けてもらいました。授業は約25分を2回、約20日の間隔で生徒が一人で進めるもので、脳は筋肉のように、難しい学習をするほど強く賢くなるというたとえを使いました。分析計画は事前登録され、データの収集と処理は研究者から独立した2つの調査機関が担当しました(Yeager ほか, 2019)。独立した評価機関による別の分析でも、成績が低い生徒で有意な効果が確認されたとイェーガーとドゥエックは伝えています(Yeager & Dweck, 2020)。

事前に定めた分析対象は、校内で成績が中央値以下だった生徒6,320人でした。この生徒たちの9年生末の主要教科(数学・理科・英語・社会)の評定平均は、対照群より0.10点(0〜4.3点の尺度、標準化した効果0.11)高く、DやFの評定平均を取った割合は46%から41%に減りました。中央値より上の生徒6,170人では有意な効果はありませんでした。事前登録していない探索的な分析では、41校(6,690人)の分析で、10年生で上級数学(代数II以上)を履修する割合が33%から36%に増えました(Yeager ほか, 2019)。

効果は学校によって異なりました。すでに成績の高い学校では効果が小さく、仲間のあいだに難しい問題に挑戦する雰囲気が強い学校では大きくなっていました。成績が低い〜中程度の学校のうち、そうした雰囲気が強い学校では評定平均への効果が0.14〜0.18点でした。ただし研究チームは、学校の雰囲気は実験で変えたのではなく測定したものなので、この点について因果的な結論は出せないと述べています(Yeager ほか, 2019)。同じデータで生徒8,775人の数学の成績記録9,167件を数学の教師223人と結びつけた、別途の事前登録のない追加の分析では、比較的成長マインドセット寄りの教師のクラスで数学の評定への効果が0.11点だった一方、比較的固定マインドセット寄りの教師のクラスでは−0.02点で有意ではありませんでした(Yeager ほか, 2022)。ノルウェーの2つの県のほぼすべての学校で生徒6,541人を対象にした実験では、上級数学を履修する割合が46%から49%に増えました(Rege ほか, 2021)。

これらの研究には、ドゥエックやイェーガーなど、マインドセット理論を発展させてきた研究者自身が参加しています。2019年の論文は、この研究に関する利益相反はないとしたうえで、複数の著者が有償・無償の講演や助言を行ってきたこと、一人の著者が学校に無料の介入プログラムを提供するスタンフォード大学の機関の共同設立者であること、成長マインドセットの製品やサービスを販売する組織と金銭的な関係を持つ著者はいないことを開示しています。研究チームは、あらゆる形の成長マインドセット介入が成績を上げると期待できるわけではないとも強調しています(Yeager ほか, 2019)。

2023年の論争:デザインとバイアスの産物か、条件しだいか

2023年、学術誌『サイコロジカル・ブレティン(Psychological Bulletin)』に、同じ研究群を扱った二つのメタ分析が並んで掲載されました。2018年のメタ分析にも加わったマクナマラとバーゴインは、63の研究(97,672人)を分析しました。全体の平均の効果はd = 0.05と小さく、出版バイアスを補正すると有意ではなくなりました。介入によって実際にマインドセットが変わったことを示した13の研究(18,355人)に限るとd = 0.04、質が最も高い6つの研究(13,571人)に限るとd = 0.02で、いずれも有意ではありませんでした。二人は、成長マインドセット介入の見かけの効果は、不十分な研究デザイン、報告の欠陥、バイアスによるものである可能性が高いと結論づけています(Macnamara & Burgoyne, 2023a)。

また、肯定的な結果を報告する金銭的な動機のある著者が加わった研究は、そうでない研究に比べて肯定的な効果を報告する可能性が約2.5倍高く、そうした著者が有意に大きな効果を出版していたと指摘しました。年齢、学業上のリスク、社会経済的地位のように理論上重要な調整変数も有意ではなかったとしています(Macnamara & Burgoyne, 2023a, 2023b)。

同じ号に掲載されたバーネットらのメタ分析は、異なる結論に達しました。2002年から2020年末までに発表された無作為化実験から、異なる介入を試した53の独立した標本を集め、一つの平均よりも、誰に、どんな条件で効果が現れるかに焦点を当てました。元の研究者が効果が大きいと見込んだ下位集団で、介入が計画どおり忠実に実施された場合、学業成績への効果はd = 0.14、メンタルヘルスへの効果はd = 0.32でした。ただし、今後の研究で予想される学業への効果の範囲(95%予測区間)は−0.08〜0.35と広く、ゼロを下回る値まで含んでいました(Burnette ほか, 2023)。この研究は要旨だけを確認しました。

その後、双方の反論が掲載されました。イェーガーが共著者に加わったティプトンらの論評は、効果が見込まれる下位集団とそうでない集団の効果を研究ごとに一つの平均にまとめると、効果が埋もれてしまうと批判しました。マクナマラとバーゴインのデータをバーネットらの方法で探索的に分析し直したところ、学業上のリスクがある集団で意味のある有意な効果が見られ、金銭的な利益相反の有無で効果が有意に分かれることはなかったといいます。論文発表後の講演や書籍の収入まで利益相反に数える基準も問題視しました(Tipton ほか, 2023)。マクナマラとバーゴインは回答のなかで、自分たちも研究ごとに複数の効果量を含めていたと述べ、この再分析は方法を変えただけでなく、63の研究のうち22で効果量やリスク集団の分類などの情報を、しばしば説明なしに変えていると反論しました。論評の著者の複数にも金銭的な動機があると指摘し、メタ分析での判断は事前に決め、透明に報告し、一貫して適用すべきだと書いています(Macnamara & Burgoyne, 2023b)。

まとめると、成長マインドセット介入がすべての生徒に大きな効果をもたらすわけではないという点では、双方に大きな違いはありません。支持する側は、教育分野の大規模な事前登録の現場実験では0.15、あるいは0.10標準偏差ほどの効果でも大きいとみなす基準を挙げ、成績の低い生徒に見られた効果を意味のあるものと見ています(Yeager & Dweck, 2020; Tipton ほか, 2023)。批判する側は、そうした下位集団の効果は研究デザインの弱さ、バイアス、事後的な判断から生じた可能性があると見ています(Macnamara & Burgoyne, 2023b)。この論争はまだ決着していません。

「努力をほめよう」:古典的な研究と再現の試み

「頭がいいね」より「よく頑張ったね」とほめよう、というアドバイスは、1998年に発表された研究から広まりました。6つの研究で、知能をほめられた5年生の子どもは、努力をほめられた子どもより、学ぶことよりもよくできるように見せることを気にし、失敗したあとは粘り強さも楽しさも低く、能力不足のせいにすることが多く、課題の成績も悪くなりました。知能をほめられた子どもは、知能を固定的な特性として表現することも多くなっていました(Mueller & Dweck, 1998)。

2019年、ある研究チームが中国の9〜13歳の子ども624人を対象に、この研究の再現と拡張を行いました。元の研究に近い形で行った最初の研究では、失敗後の中程度の難しさのテストの得点だけに差があり(p = .049)、元の研究が使った8つの動機づけ・原因帰属の指標には有意な差はありませんでした。アクティブ対照条件を加えた2つ目と3つ目の研究では効果が見られず、1学期にわたって成績を追った2つの研究でも、成長マインドセットは成績の向上と関連していませんでした(Li & Bates, 2019)。これに対してイェーガーとドゥエックは、3つの実験のうち1つは有意に、1つは境界線上の水準で元の結果を再現しており、それぞれの検定力が低かったので、3つを合わせれば元の研究は再現されたと反論しています(Yeager & Dweck, 2020)。

同じデータでも解釈が分かれているわけです。二つのほめ方の研究は要旨だけを確認しました。この記事のために調べた範囲では、努力をほめることだけで長期的に成績が上がることを示す大規模な実験は見つかりませんでした。ドゥエック自身も、学べていないのに努力だけをほめることを誤解の一つに挙げていた点(Dweck, 2015)も覚えておきましょう。

親・教師・自分にとって:研究から言えること

研究で確かめられているのは、成長マインドセットの授業の平均的な効果が小さいということです(Sisk ほか, 2018; Macnamara & Burgoyne, 2023a)。一部の大規模な実験では、成績の低い生徒、仲間が挑戦を重んじる学校、教師が成長マインドセット寄りのクラスで効果が大きくなっていました(Yeager ほか, 2019, 2022)。ただし学校の雰囲気や教師のマインドセットは実験で変えたのではなく測定したものなので、それが原因かどうかは確かめられておらず、こうした下位集団の効果を信頼できるかどうかが2023年の論争の核心です。すべての生徒に大きな効果を期待しにくいことは、批判する側も支持する側も認めています(Sisk ほか, 2018; Tipton ほか, 2023)。教師を対象にした、あるいは教師が実施した介入は、これまで効果を示せていないとイェーガーとドゥエックも書いています(Yeager & Dweck, 2020)。

親や教師に向けた方法は、大規模な実験で直接試されたものではなく、理論や経験から出てきた提案です。ドゥエックは、結果だけでなく、試した方法のような学びにつながる過程についても話すこと、行き詰まったときにこれまで試したことと次に試すことを一緒に探すこと、子どもの今の到達度を正直に伝えることを勧めています(Dweck, 2015)。OECDの報告書も、「できるよ」と言うだけでは足りず、挑戦的な学習目標と必要な支援、フィードバックがそろう必要があると強調しています(OECD, 2019)。この説明に従えば、マインドセットのメッセージは、補習や適切な課題、学習資源といった実際の支援の代わりにはなりません。

自分自身に当てはめるなら、ドゥエックの提案のように、誰にでも固定マインドセットと成長マインドセットが混ざっていると認め、難しいことや挫折、批判、自分よりうまくできる人に出会ったときに「自分はもともとだめだ」という考えが浮かんでいないか気づいてみる、というくらいが現実的です(Dweck, 2015)。これも効果が直接試された方法ではありません。失敗が怖くて始めにくいなら完璧主義、何かと先延ばししてしまうなら先延ばし癖、成果を出しても実力ではなく運だと感じるならインポスター症候群、何をしてもやる気が出ないなら無気力のガイドのほうが直接役立つかもしれません。自分を見る目が全体に厳しいと感じるなら、自己肯定感が低い人の特徴と自己肯定感を高める方法も参考にしてください。

マインドセットは、能力が変わりうるかについての「信念」なので、外向性や誠実性のような性格特性とは別の概念です。自分の性格特性が気になるなら、ビッグファイブ性格診断で5つの特性を点数で確かめられます。

よくある質問

Q. 成長マインドセットの効果は確かめられていますか? A. マインドセットと成績の関連は、平均すると弱いものです(r = .10、Sisk ほか, 2018)。米国の全国実験では、短いオンライン授業が成績中央値以下の生徒の評定平均を0.10点上げましたが(Yeager ほか, 2019)、2023年のメタ分析の一つは質の高い研究に限ると効果は有意でないとし(Macnamara & Burgoyne, 2023a)、もう一つは対象と実施の条件がそろえば学業成績への効果はd = 0.14だった一方、今後予想される効果の範囲は−0.08〜0.35と広いとしました(要旨による。Burnette ほか, 2023)。

Q. 固定マインドセットは悪いものですか? A. ドゥエックは、誰もが二つのマインドセットの混ざり合ったもので、これからもおそらくそうだとし、固定マインドセットを「禁止」するとかえって偽りの成長マインドセットが生まれると書いています(Dweck, 2015)。マインドセットは連続体の上にあり、時によって変わりえます(Yeager & Dweck, 2020)。

Q. 子どもは努力だけをほめればいいのですか? A. ドゥエック自身、学べていないのに努力だけをほめることをよくある誤解に挙げています(Dweck, 2015)。知能をほめる場合と努力をほめる場合を比べた1998年の研究は、2019年の再現研究ではほとんど再現されず、その読み方にも反論があります(Li & Bates, 2019; Yeager & Dweck, 2020)。

Q. 大人にも効果はありますか? A. 2018年のメタ分析では、成人のマインドセットと成績の相関はr = .02で有意ではなく、成人を対象にした介入の効果(d = 0.08)も有意ではありませんでした(Sisk ほか, 2018)。研究の多くは生徒・学生が対象です。

Q. グリットと同じものですか? A. いいえ。成長マインドセットは能力が伸ばせるという信念で(Yeager & Dweck, 2020)、グリットは長期的な目標への粘り強さと情熱を指します。グリットの研究はグリットのガイドに、グリットとレジリエンスの違いはレジリエンスのガイドにまとめています。

Q. 失敗するたびに「自分はもともとだめな人間だ」と思えて、つらくて消えてしまいたくなります。 A. 一人で抱えないでください。すぐに相談窓口(よりそいホットライン 0120-279-338、24時間・無料)に連絡してください。今すぐ命の危険があるときは、119(救急)または110(警察)に連絡してください。気分の落ち込みが長く続くなら、うつ病の症状のガイドも見てください。

参考文献:Sisk, V. F., Burgoyne, A. P., Sun, J., Butler, J. L., & Macnamara, B. N. (2018), To what extent and under which circumstances are growth mind-sets important to academic achievement? Two meta-analyses, Psychological Science 29(4), 549-571, https://doi.org/10.1177/0956797617739704; Dweck, C. S., & Leggett, E. L. (1988), A social-cognitive approach to motivation and personality, Psychological Review 95(2), 256-273, https://doi.org/10.1037/0033-295X.95.2.256; Dweck, C. S., Chiu, C., & Hong, Y. (1995), Implicit theories and their role in judgments and reactions: a word from two perspectives, Psychological Inquiry 6(4), 267-285, https://doi.org/10.1207/s15327965pli0604_1; Yeager, D. S., & Dweck, C. S. (2020), What can be learned from growth mindset controversies?, American Psychologist 75(9), 1269-1284, https://doi.org/10.1037/amp0000794; Dweck, C. S. (2015), Carol Dweck revisits the “growth mindset”, Education Week, https://www.edweek.org/leadership/opinion-carol-dweck-revisits-the-growth-mindset/2015/09; OECD (2019), PISA 2018 Results (Volume III): What School Life Means for Students’ Lives, chapter 14 “Growth mindset”, OECD Publishing, https://doi.org/10.1787/acd78851-en; Li, Y., & Bates, T. C. (2019), You can’t change your basic ability, but you work at things, and that’s how we get hard things done: testing the role of growth mindset on response to setbacks, educational attainment, and cognitive ability, Journal of Experimental Psychology: General 148(9), 1640-1655, https://doi.org/10.1037/xge0000669; Yeager, D. S., Hanselman, P., Walton, G. M., et al. (2019), A national experiment reveals where a growth mindset improves achievement, Nature 573(7774), 364-369, https://doi.org/10.1038/s41586-019-1466-y; Yeager, D. S., Carroll, J. M., Buontempo, J., et al. (2022), Teacher mindsets help explain where a growth-mindset intervention does and doesn’t work, Psychological Science 33(1), 18-32, https://doi.org/10.1177/09567976211028984; Rege, M., Hanselman, P., Solli, I. F., et al. (2021), How can we inspire nations of learners? An investigation of growth mindset and challenge-seeking in two countries, American Psychologist 76(5), 755-767, https://doi.org/10.1037/amp0000647; Macnamara, B. N., & Burgoyne, A. P. (2023a), Do growth mindset interventions impact students’ academic achievement? A systematic review and meta-analysis with recommendations for best practices, Psychological Bulletin 149(3-4), 133-173, https://doi.org/10.1037/bul0000352; Burnette, J. L., Billingsley, J., Banks, G. C., Knouse, L. E., Hoyt, C. L., Pollack, J. M., & Simon, S. (2023), A systematic review and meta-analysis of growth mindset interventions: for whom, how, and why might such interventions work?, Psychological Bulletin 149(3-4), 174-205, https://doi.org/10.1037/bul0000368; Tipton, E., Bryan, C., Murray, J., McDaniel, M. A., Schneider, B., & Yeager, D. S. (2023), Why meta-analyses of growth mindset and other interventions should follow best practices for examining heterogeneity: commentary on Macnamara and Burgoyne (2023) and Burnette et al. (2023), Psychological Bulletin 149(3-4), 229-241, https://doi.org/10.1037/bul0000384; Macnamara, B. N., & Burgoyne, A. P. (2023b), A spotlight on bias in the growth mindset intervention literature: a reply to commentaries that contextualize the discussion (Oyserman, 2023; Yan & Schuetze, 2023) and illustrate the conclusion (Tipton et al., 2023), Psychological Bulletin 149(3-4), 242-258, https://doi.org/10.1037/bul0000394; Mueller, C. M., & Dweck, C. S. (1998), Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance, Journal of Personality and Social Psychology 75(1), 33-52, https://doi.org/10.1037/0022-3514.75.1.33

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