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こころのガイド

更年期のうつ・イライラ・気分の波:閉経前後の不安・不眠と対処

更年期のうつや気分の変化を研究と公的資料から整理。閉経前後に気分・不安・睡眠・集中が揺れる理由と頻度、うつ病などとの見分け方、役立つ治療、男性更年期、相談先まで。

更年期と閉経移行期:何が起こり、何が診断になるのか

「更年期」が指す範囲は資料によって少しずつ違います。韓国の公的な資料は、月経周期が不規則になり始めてから最後の月経までを更年期と説明し、閉経は最後の月経から12か月間月経がないときに確かめるもので、特定の検査で診断するものではないとしています(韓国疾病管理庁, 2026a)。国際的な基準では、月経周期の長さが7日以上違うことがくり返されると閉経移行期前期、60日以上月経がないと閉経移行期後期です。後期は平均1〜3年で、ほてりなどの血管運動症状が起こりやすく、「周閉経期」は移行期前期から最後の月経の12か月後までを指します(Harlow ほか, 2012)。ホルモンを含む避妊法を使っていると、どの段階にいるのかわかりにくくなることがあります(NHS, 2026a)。

韓国の資料では、閉経はおおむね50〜52歳に訪れ、閉経移行期は平均46歳ごろに始まって2〜8年(平均約5年)続き、45歳より前の閉経は早期閉経、40歳より前は早発卵巣不全と診断されます(韓国疾病管理庁, 2026a)。日本では閉経の前後約5年ずつの10年くらいを更年期といい、平均閉経年齢が50.5歳のため、一般に45〜55歳ごろです(厚生労働省, n.d.a)。フランスでは平均51歳で(Assurance Maladie, 2026a)、世界的にはほとんどの女性が45〜55歳で閉経を迎えます(WHO, 2024)。

この時期には、ほてりや寝汗といった血管運動症状が閉経移行期の女性の約60〜70%に現れ、夜に強まると不眠につながることがあります(韓国疾病管理庁, 2026a)。気分が揺れたり落ち込んだり、不安が強まったり、記憶力や集中力が落ちたりもし、眠れずに疲れているとさらに強まることがあります。症状はふつう7〜9年、ときにはそれ以上続き、その間に現れ方が変わることもあります(NHS, 2026a)。ただし個人差が大きく、症状がほとんどない人もいれば、日常生活や生活の質に支障が出るほど重い人もいます(WHO, 2024)。

世界保健機関の国際疾病分類(ICD-11)で、閉経と閉経移行期は精神疾患ではなく婦人科の項目(GA30)に入っており、ほてり・不眠・頭痛・集中力の低下といった症状がここに含まれます(WHO, 2026)。「更年期うつ病」という独立した精神疾患の診断はありません。精神疾患の診断基準は閉経と関係なく同じで、更年期だからといって誰もが心理的な苦痛を強めるわけではありません(FIGO, 2026)。ほぼ毎日、一日の大半、気分が落ち込んだ状態が2週間以上続くなら受診するよう勧められています(NIMH, 2023)。かつての米国の診断体系には閉経期に特有のうつ病の診断がありましたが、根拠が乏しいとして後の版で削除されました(Bromberger ほか, 2011)。うつ病はこの時期に初めて起こることもあれば、以前のうつ病が再発することもあります(FIGO, 2026)。

韓国の国家精神健康情報ポータルも「更年期うつ病」という言葉を使っていますが、一般的な大うつ病と現れ方は大きく変わらないと説明しています(韓国国立精神健康センター, 2021)。mind.ioには更年期の検査はなく、この記事は診断のかわりにはなりません。気分・不安・睡眠・集中の変化がどのくらい多いか、なぜ起こるか、似て見えるほかの原因、役立つことと根拠が弱いこと、男性更年期、相談先を、研究と公的な資料からまとめました。月経前や睡眠、ストレスなど、気分を揺らすほかのよくある原因は感情の起伏(気分の波)にまとめています。

どのくらい多い? 症状と診断は別のもの

前向き研究17本(1万6,061人)を検討し、そのうち7本(9,141人)をまとめたメタ分析では、閉経移行期の女性は閉経前の女性よりうつ症状やうつ病のオッズが高く(オッズ比1.40)、閉経後ははっきりした差がありませんでした。質問紙の点数と面接による診断を一緒にまとめた結果で、過去のうつ病歴は考慮できていません(Badawy ほか, 2024)。

診断面接で調べた研究もあります。閉経前だった米国の女性221人を10年間毎年面接した研究では、大うつ病エピソードと診断された受診回は、閉経前535回中5.8%、閉経移行期782回中9.1%、閉経後381回中9.8%で、最後の月経から2年以内のリスクがもっとも高くなっていました(Bromberger ほか, 2011)。うつ病になったことのない36〜45歳の女性460人のうち、閉経移行期に入った女性は閉経前にとどまった女性より、はっきりしたうつ症状が出る可能性が2倍でした(Cohen ほか, 2006)。それでも、ほとんどの中年女性はうつ症状が強くありませんでした(Bromberger ほか, 2007)。

質問紙で測った症状はずっと多くみられます。102の研究をまとめたメタ分析では、ある時点でうつ症状がある割合は閉経移行期で32%、閉経後で30%、不眠の症状はそれぞれ27%と42%でした。不安の症状もおよそ3人に1人ほどでしたが、推定の幅がとても広くなっていました。全体として、スクリーニング用の質問紙を使った研究と閉経の初期で割合が高く出ました(Balasubramanian ほか, 2026)。これらはうつ病と診断された割合ではありません。

韓国では、健康診断を受けた40〜65歳の女性4万5,177人を一時点で調べた研究で、質問紙の点数でみた強いうつ症状は閉経移行期の前期から多くなり、閉経後にもっとも多くみられました(An ほか, 2022)。一方、同じ病院の健診受診者1,178人を約11年追った研究では、閉経の段階が進んでも平均ではうつ症状ははっきり増えず、大半(75.5%)はずっと低いままでした。5.8%(68人)はしだいに悪化し、睡眠の質の悪さや中等度以上のほてりと関連していました(Jang ほか, 2025)。研究のデザインによって結果が異なります。

厚生労働省の2022年のインターネット調査(20〜64歳の5,000人)では、医療機関で更年期障害と診断されたことがある女性は40歳代3.6%、50歳代9.1%でしたが、更年期障害の可能性があると考えている女性は40歳代28.3%、50歳代38.3%でした(厚生労働省, 2022)。不安が強まることもあります。米国の女性2,956人を10年間追った研究では、イライラ・緊張・理由のない恐れ・動悸が強かった受診回は閉経前15.6%、移行期前期20.7%で、もともと不安の少なかった女性で移行期以降に増えました(Bromberger ほか, 2013)。米国の40〜55歳の女性1万2,603人のうち38%が眠りにくいと答え、閉経移行期後期では45.4%でした(Kravitz ほか, 2003)。

なぜ揺れるのか:ホルモンのゆらぎ、睡眠、中年期の重み

専門家のガイドラインは、閉経移行期と閉経後早期を、うつ症状にも大うつ病エピソードにもなりやすい「脆弱な時期」とみています(Maki ほか, 2018)。理由のひとつはホルモンのゆらぎです。うつ病になったことのない女性を8年間追った研究では、閉経移行期には閉経前より、うつ症状の点数が高く出る可能性(オッズ比4.29)も、うつ病性障害と診断される可能性(オッズ比2.50)も高く、ホルモンが本人の平均から大きく上下するほど、うつ症状の点数が高く出ていました(Freeman ほか, 2006)。一方、血中のホルモン値そのものは大うつ病エピソードと関連していませんでした(Bromberger ほか, 2011)。韓国の公的な資料も、エストロゲンの低下が気分を調節する神経伝達物質に影響すること、ほてりなどの体の変化、この時期の環境の変化が重なって働くと説明しています(韓国疾病管理庁, 2026a)。

同じ変化でも、反応は人によって違います。以前に閉経移行期のうつ病を経験してホルモン療法で改善した女性26人と、うつ病になったことのない女性30人を比べた小さな実験で、本人に知らせずにホルモンをやめると、うつ症状が再び現れたのは前者だけでした。通常のホルモンの変化にとりわけ敏感に反応する人がいることを示すと考えられています(Schmidt ほか, 2015)。うつ状態ではなかった45〜60歳の女性52人を14か月追った研究では、エストロゲンの変動が大きかった女性でうつ症状が増えましたが、それは最初の時点でとてもつらい出来事を多く経験していた女性に限られていました(Gordon ほか, 2016)。

夜のほてりと途切れる睡眠も関わっています。若い女性29人に薬で卵巣ホルモンを下げて閉経に似た状態をつくった実験では、うつ症状は、客観的にも自己申告でも測った睡眠の乱れ、そして夜のほてりの回数とともに現れ、昼のほてりとは関連しませんでした(Joffe ほか, 2016)。16の縦断研究(1万8人)を検討した結果、ほてり・寝汗とうつ症状の関連は双方向にみられましたが、閉経移行期のうつはほてりだけでは説明しきれない可能性がありました(Natari ほか, 2018)。不安も同様で、ほてりが頻繁な女性はそうでない女性より、不安症状が強いオッズが3倍近く高くなっていました(Bromberger ほか, 2013)。韓国閉経学会は、エストロゲンによる気分の改善はほてりを直接和らげることよりも睡眠がよくなることによると考えられるとして、不眠への対処が大切だとしています(韓国閉経学会, 2025)。

うつ病になったことがある人は、より注意が必要です。米国の中年女性を13年間毎年面接した研究では、最初にうつ病歴があった151人の59%、なかった274人の28%が、その間に一度以上大うつ病性障害を経験しました(Bromberger ほか, 2015)。根拠からは、周閉経期に大うつ病エピソードを経験する中年女性の多くは、以前にもうつ病を経験していると考えられます(Maki ほか, 2018)。米国の女性203人を14年間追った研究では、うつ病歴のない女性は最後の月経から2年ほどたつとリスクが低くなりましたが、うつ病歴のある女性は閉経後もうつ症状が強く出る可能性がずっと高いままでした(Freeman ほか, 2014)。40歳より前に出産したデンマークの女性27万613人の病院記録を調べた研究では、産後うつを経験した女性も、ほかの時期にうつ病を経験した女性も、47歳からの9年間にうつ病と診断されるリスクが、うつ病の記録のない女性よりずっと高くなっていました(Venborg ほか, 2023)。月経前症候群があった女性は、5年間にほてり、気分の落ち込み、睡眠の問題をより多く報告していました(Freeman ほか, 2004)。

中年期の暮らしも重なります。この時期には、年老いた親の世話をしながら子どもが大人になっていく過程にも向き合い、仕事の変化やパートナーとの対立が重なりがちです(Bromberger & Epperson, 2018)。韓国の国家精神健康情報ポータルも、閉経前後を、子どもの独立、長く続く家族の葛藤、社会的な達成の限界、老後への不安が重なり、それまでの役割を見直す時期と説明しています(韓国国立精神健康センター, 2021)。先の診断面接の研究でも、うつ病歴がある場合や、とてもつらい出来事を経験した場合、大うつ病エピソードのオッズは3倍近くになっていました(Bromberger ほか, 2011)。つまり更年期の落ち込みは、「すべてホルモンのせい」でも「心が弱いから」でもありません。ホルモンの変化に睡眠、体の症状、暮らしのストレスが重なって起こり、どれが重いかは人によって違います。

似て見えるもの:うつ病、甲状腺・貧血、双極症、ブレインフォグ

更年期の症状とうつ病はいっしょに現れて重なり合うため、見分けるのは簡単ではありません。専門家のガイドラインは、中年期のうつは典型的なうつ症状に、ほてりや睡眠の乱れなどの更年期症状と心理社会的な困難が加わった形で現れることが多いとし、診断では閉経の段階、併存する精神症状と更年期症状、中年期によくある心理社会的要因、ほかの病気の可能性をあわせて確かめ、妥当性が確認されたスクリーニング検査を使うとしています(Maki ほか, 2018)。睡眠の乱れや気分の波は閉経移行期によくみられますが、イライラ・不安・悲しみがずっと強くなったり、楽しめなくなったりしたら、うつ病のサインかもしれません(NIMH, 2023)。うつ病の現れ方はうつ病の症状にまとめています。

体のほかの原因も確かめる必要があります。甲状腺の働きが低下すると、疲れとともに意欲がなくなり、集中しにくく、記憶力が落ちることがあり(韓国疾病管理庁, 2026b)、甲状腺の働きが高まりすぎると、暑がりになり、汗が増え、動悸がして、不安や不眠が起こることがあるため、更年期の症状と取り違えやすくなります。甲状腺の病気は血液検査で確かめられます(韓国疾病管理庁, 2026c)。月経の量が多いことは鉄欠乏性貧血のとても多い原因で、貧血になると疲れやすく、元気が出なくなります(NHS, 2024)。閉経移行期のうつに見えても、甲状腺の病気や自己免疫疾患などほかの原因がないか、体の状態を確かめるべきだという指摘もあります(Kulkarni, 2018)。

双極症(双極性障害)がある人は、この時期にうつが増えることがあります。双極症のある45〜55歳の女性47人を調べた研究では、68%が閉経移行期に一度以上うつ病エピソードを経験し、うつ病エピソードは生殖年齢の時期より増えましたが、気分が高揚するエピソードは増えませんでした(Marsh ほか, 2008)。最近の研究をまとめたレビューは、周閉経期が双極症の初めて始まるリスクの高い時期だという根拠が集まりつつあるとしています(Radosavljevic ほか, 2026)。以前に気分がひどく高揚して活動が大きく増えた時期があったなら、受診のときに必ず伝えてください。詳しくは双極症(双極性障害)にあります。

40代では月経前症候群とも重なりやすいのですが、月経前の症状は月経周期に沿ってくり返し、更年期の症状は月経と関係なく現れる点で見分けます(日本産科婦人科学会, 2025)。月経前症候群は、年齢が上がるほど、また月経の出方が変わるほど少なくなりましたが(Freeman ほか, 2004)、閉経前の数年にはかえって強まることもあります(Pinkerton, 2026)。記録をつけて見分ける方法は月経前症候群(PMS)とPMDDにまとめています。

更年期には、集中しにくい、言葉が出てこない、いくつものことを同時にこなしにくい、少し前のことを忘れるといった「ブレインフォグ」を感じる人がよくいます。こうした困りごとは、ほてり、睡眠の乱れ、気分の変化、ストレスの影響を強く受け、たいていはわずかで日常生活は保たれ、時間とともに落ち着いたりよくなったりすることが多いものです。ただ、しだいに悪化する、続く、生活に支障が出るといった場合は、ほかの原因を調べる必要があります(Khadilkar ほか, 2026)。米国の女性2,362人を4年間追った研究では、閉経移行期に下がった学習の成績が閉経後にもとの水準に戻りました(Greendale ほか, 2009)。日本女性医学学会も、更年期の女性に実際に認知症がみられることはまれだが、記憶力の低下が急速に進み、周りから見ても明らかに異常と思われる場合は専門医を受診する必要があるとしています(日本女性医学学会, n.d.)。物忘れのほかの原因は物忘れの原因と認知症との違いにまとめています。

役立つこと:ガイドラインの考え方と根拠の強さ

まずガイドラインです。英国のガイドラインは、うつ病の診断基準には届かないうつ症状がほかの更年期症状と同じころに始まったならホルモン補充療法を、血管運動症状をともなうなら認知行動療法を検討するよう求め、うつ病が疑われる、または診断された場合はうつ病の治療ガイドラインもあわせて用いるとしています(NICE, 2026)。専門家のガイドラインは、効果が確かめられたうつ病の治療、つまり抗うつ薬と心理療法を周閉経期うつ病の第一の治療とし、エストロゲン療法はうつ病の治療薬として承認されていないものの、周閉経期の女性で、特にほてりなどの血管運動症状があるときに抗うつ効果があるという根拠があるとしています(Maki ほか, 2018)。韓国閉経学会の2025年ガイドラインも、閉経ホルモン療法をうつ病の治療だけを目的に勧めることはせず、閉経期に再発したうつ病は主に抗うつ薬や、認知行動療法・対人関係療法などの根拠のある心理療法で治療し、ほてりなどの症状もあれば補助的に検討できるとしています(韓国閉経学会, 2025)。

心理療法の根拠は次のとおりです。30の研究(3,501人)をまとめた分析では、認知行動療法とマインドフルネスは更年期のうつと不安を小〜中程度減らしました(Spector ほか, 2024)。14のランダム化試験(1,618人)をまとめた別のメタ分析でも、認知・行動療法はほてり、うつ、不安を小〜中程度減らし、効果は時間とともにやや弱まりながらも続きました(Ye ほか, 2022)。ただ、英国のガイドライン委員会が検討した更年期の認知行動療法の研究では、うつ症状について比較群と差がないものが大半で、委員会は認知行動療法がうつ症状全般に効果が確立していることを理由に選択肢として残しました(NICE, 2026)。英国のあるランダム化試験(140人)では、集団の認知行動療法も冊子を使うセルフヘルプの認知行動療法も、ほてり・寝汗によるつらさを減らし、6週間後には気分もよくなっていました(Ayers ほか, 2012)。

睡眠の問題には、まず不眠症の認知行動療法(CBT-I)です。1日2回以上のほてりと不眠の症状がある40〜65歳の女性106人を対象にしたランダム化試験で、電話でCBT-Iを受けた側は、8週後に47人中33人(70%)、24週後に44人中37人(84%)が不眠のない範囲に入り、更年期についての教育だけを受けた側は41人中10人(24%)、37人中16人(43%)でした。1日のほてりの回数は両群で差がありませんでした(McCurry ほか, 2016)。韓国の研究チームがランダム化試験11件(973人)をまとめたメタ分析でも、CBT-Iは睡眠の質を高め、不眠の程度を減らし、対面でも遠隔でも効果がありました(Moon ほか, 2025)。2026年のメタ分析は、慢性的な不眠のある更年期の女性には、薬よりもCBT-Iなどの薬を使わない治療がもっとも確かな第一の選択肢とみられるとしています(Bruyneel ほか, 2026)。ホルモン療法は、ほてりのある女性では睡眠の質を改善しましたが(根拠の質は中程度)、ほてりのない女性では差がありませんでした(Cintron ほか, 2017)。CBT-Iの内容は不眠症にまとめています。

ホルモン療法の気分への効果は、時期によって異なります。うつ病性障害のある閉経移行期の女性50人を対象にした12週間のランダム化試験では、エストロゲン療法を受けた側の17人(68%)、プラセボ側の5人(20%)が寛解しました(Soares ほか, 2001)。一方、より高齢の閉経後女性57人の軽度〜中等度のうつ病では、エストロゲンはプラセボより優れていませんでした(Morrison ほか, 2004)。周閉経期の女性のうつ症状に対するランダム化試験12件をまとめた2026年のメタ分析では、ホルモン療法の効果は小さく(SMD -0.23)、根拠の確実性も限られていました(Li ほか, 2026)。韓国閉経学会は、ホルモン療法でうつ症状がよくなった女性は、治療をやめると悪化することがあるとも伝えています(韓国閉経学会, 2025)。

ホルモン療法のリスクは、「必ず危険」でも「必ず安全」でもありません。米国のWHI試験は、子宮のある50〜79歳の健康な閉経後女性1万6,608人に、当時米国でもっとも多く使われていたエストロゲン・プロゲストーゲン併用の錠剤1種類を用いた一次予防の試験で、2002年、浸潤性乳がんがあらかじめ決めた基準を超え、全体としてリスクが利益を上回ると判断されたため、平均5.2年で早期に中止されました。1万人が1年間使うと、心臓病が7件、脳卒中が8件、肺塞栓症が8件、浸潤性乳がんが8件増え、大腸がんが6件、大腿骨頸部骨折が5件減るという程度で、研究者は心臓病の予防のためにこの治療を始めたり続けたりすべきではないと結論づけました(Rossouw ほか, 2002)。WHIの研究者は2024年のレビューで、ホルモン療法は心血管疾患などの慢性疾患の予防には支持されないが、禁忌がなく症状がつらい閉経早期の女性が60歳前に始めることは支持されるとまとめています(Manson ほか, 2024)。

現在のガイドラインの整理は次のとおりです。英国のガイドラインによれば、併用のホルモン補充療法は乳がんのリスクを高め、その増加は使用期間が長いほど大きく、やめると下がりますが少なくとも10年は残ります。冠動脈疾患のリスクは高めず、65歳以上で始めると認知症のリスクが高まる可能性があります。皮膚から使うエストロゲンを含む併用療法は脳卒中のリスクを高めないとみられ、皮膚から使うホルモン補充療法は静脈血栓のリスクを高めませんが、飲み薬のホルモン補充療法は高めます(NICE, 2026)。英国の国民保健サービスは、併用療法を5年使うと乳がんが1,000人あたり5人ほど増えると説明し、60歳未満で更年期の症状があり、乳がんや血栓のリスクが高くなければ利益がリスクを上回る可能性が高く、リスクだけを見ていた以前の見方はもう古いとしています(NHS, 2023)。長期のホルモン療法に関するコクランレビュー(24件、4万5,660人)では、併用療法を5年あまり使った1,000人あたり、乳がんは約19人から24人に増えた可能性が高く(根拠の確実性は中程度)、脳卒中は13人から18人に、静脈血栓は10人から20人に増えた可能性があり(確実性は低い)、骨折は111人から87人に減った可能性が高いとされました。ただし、主に60歳を超える女性を対象とした、飲み薬のホルモン療法の試験1件から出た数字で、現在の治療とは違う可能性があります(Bofill Rodriguez ほか, 2026)。

韓国の公的な資料は、健康な60歳以下、または閉経後10年以内の女性なら、利益とリスクをあわせて評価して閉経ホルモン療法を検討できるとし、併用療法を長く使った60歳以上の女性では乳がん、脳卒中、血栓症のリスクが高まると説明しています(韓国疾病管理庁, 2026a)。原因不明の性器出血、乳がんなどのエストロゲン依存性のがん、活動性の血栓症、肝機能障害、胆のう疾患は禁忌とされています(韓国閉経学会, 2025)。自分に合うかどうかは医師と一緒に決めましょう。

抗うつ薬を種類ごとにみると、閉経移行期と閉経後の女性のうつ・不安に使われたホルモン以外の薬の研究31件(8,124人)を整理した2026年のレビューでは、SNRIはうつ症状に役立ったという結果がほかの種類より多く、SSRIの効果は大きくなく研究によってばらつきがあり(うつ症状についての根拠の確実性は中程度)、不安についての結果はどの種類でも一致しませんでした(Hedayati ほか, 2026)。英国の国民保健サービスは、閉経が原因の気分の落ち込みやうつ、不安に抗うつ薬が処方されることがあると案内し(NHS, 2026b)、英国のガイドラインは、ほてりだけのときにSSRI・SNRIを第一の治療として日常的に勧めることはしていません(NICE, 2026)。

サプリメントや生薬には、期待されるほどの根拠はありません。ブラックコホシュは、22編(2,310人)をまとめたメタ分析で、ほてりには小さな効果がありましたが、不安やうつ症状ははっきりとは減りませんでした(Sadahiro ほか, 2023)。ブラックコホシュと表示された製品で、まれに重い肝障害が報告されていますが、ブラックコホシュが原因かどうかははっきりせず、違う生薬が入っていたり表示にない生薬が混ざっていたりする製品も見つかっています(NCCIH, 2024)。セイヨウオトギリソウ(セントジョーンズワート)は、一部の抗うつ薬と一緒にとると重い副作用が起こることがあり、避妊用ピルなど多くの薬の効果を弱めることがあります(NCCIH, 2025)。英国の国民保健サービスも、レッドクローバーやブラックコホシュなどの生薬がどれほど効き、どれほど安全かについての根拠はとても少ないとしています(NHS, 2026b)。韓国の公的な資料も、ブラックコホシュの効果はまだはっきりしないとしています(韓国疾病管理庁, 2026a)。

運動がほてりそのものを減らすという根拠は不十分です(Daley ほか, 2014)。それでも、周閉経期と閉経後の女性のうつ症状に対する運動の試験23件を比べた分析では、有酸素運動がもっとも上位に挙げられました(Wang ほか, 2025)。治療のかわりにはなりませんが、体を動かす習慣はあわせて取り入れる価値があります。

男性更年期は何が違う?

男性には、女性の閉経のような急激なホルモンの変化はありません。テストステロンは30〜40歳ごろから年に1%ほどゆるやかに減り、それだけで問題が起こる可能性は低いとされます。英国の国民保健サービスは、「男性更年期」という言葉は中年期にテストステロンが急に下がるという誤解を与えるとし、年齢を重ねてから起こるテストステロンの欠乏(加齢性の性腺機能低下症、LOH症候群)は、老化の正常な過程ではなく、まれで特定の病気だとしています。性欲の低下や気分の波も、ホルモンとは関係なく、ストレス、うつ、不安によることが多いとされます(NHS, 2022)。韓国の公的な資料も、男性更年期は女性の閉経のように急に起こるより、ゆるやかに進むものだとし、診断には性欲の低下、疲れ、気分の落ち込みなどの意味のある症状と、血中テストステロンの測定の両方が必要で、自己記入式の質問票は診断の道具ではなく参考にとどまるとしています(韓国疾病管理庁, 2026d)。欧州8都市で無作為に選んだ40〜79歳の男性3,369人の研究では、厳しい基準でみた加齢性の性腺機能低下症は2.1%でした(Wu ほか, 2010)。

テストステロンが低いからうつ病になると言い切れる根拠はありません。欧州泌尿器科学会のガイドラインは、性腺機能低下症とうつ病の関係はまだはっきりせず、臨床的なうつ病性障害のある男性の大半にはテストステロン療法だけでは効果的な治療にならなかったとし、重いうつ症状は通常の治療で扱い、値が正常な男性にはテストステロン療法を使わないよう求めています(欧州泌尿器科学会, n.d.)。27件のランダム化試験(1,890人)をまとめたメタ分析では、テストステロン療法はうつ症状をわずかに(効果量0.21)減らしましたが、うつ病を主な評価項目とした試験がさらに必要だとしています(Walther ほか, 2019)。韓国の公的な資料は、むやみに使うと心血管や前立腺の健康に悪い影響を与えるおそれがあるため、専門医と十分に相談して決めるよう求め、症状がくり返し続くときは泌尿器科、内分泌内科、家庭医学科の受診を勧め、気分の落ち込みや意欲の低下が続いて人間関係や仕事に影響するときも同じだとしています(韓国疾病管理庁, 2026d)。そうしたときはうつ病かどうかもあわせて考えてみてください。

いつ、どこに相談する?

厚生労働省のマニュアルは、受診の目安として、更年期の症状がいくつも重なってつらい、日常生活に影響が出ている、気分が落ち込んで何もやる気が起きない、といった場合を挙げています(厚生労働省, n.d.b)。ほぼ毎日、一日の大半に症状がある状態が2週間以上続くときも同じです(NIMH, 2023)。早めに相談すると、更年期が健康、人間関係、仕事に与える影響を減らす助けになることがあります(NHS, 2026a)。世界保健機関は、多くの女性が、症状が閉経と関係していることも、カウンセリングや治療で楽になることも知らず、恥ずかしさから助けを求められないことがあると指摘しています(WHO, 2024)。

韓国では、ほてりなどの更年期の症状は産婦人科で、うつや不安が強いなら精神科(精神健康医学科)で相談できます。韓国の国家精神健康情報ポータルは、近くの精神科医院や地域の精神健康福祉センターで治療が必要かどうか確かめるよう勧めています(韓国国立精神健康センター, 2021)。ホルモン療法を考えるなら、医師は血栓、心血管疾患、乳がんなどの既往歴や家族歴、精神疾患、喫煙・飲酒の習慣をまず確認します(韓国疾病管理庁, 2026a)。初めて受診するなら初めての精神科も参考にしてください。mind.ioのPHQ-9は過去2週間の気分を確かめるスクリーニングで、更年期の検査や診断ではありません。更年期の症状はうつ病の現れ方と重なるため(Maki ほか, 2018)、ほてりや寝汗で眠れないだけでも睡眠の質問の点数が高く出ることがあります。

日本では、国のサイトが、つらい場合はがまんせず婦人科を受診して治療を受けるよう案内しています(厚生労働省, n.d.a)。日本女性医学学会は、軽度から中等度の抑うつ気分や意欲の低下なら、最初の相談先は婦人科ないし更年期外来が望ましいとしています(日本女性医学学会, n.d.)。更年期障害に甲状腺などほかの臓器の異常がともなうこともあるため、複数の診療科での対応が必要なこともあります(厚生労働省, n.d.b)。

フランスでは、かかりつけ医、婦人科医、助産師がおもな相談先です(Assurance Maladie, 2026b)。英国では、更年期の症状があると思い、どんな選択肢があるか知りたいときはGP(一般医)を受診するよう勧めています(NHS, 2026a)。

死にたい気持ちや自分を傷つけたい気持ちがあるなら、待たないでください。国際産婦人科連合(FIGO)は、自殺の傾向は必ず深刻に受け止め、精神科医を含む多職種のチームが対応すべきだと勧めています(FIGO, 2026)。日本女性医学学会も、症状が強い場合や、生きていくことそのものを否定するような言動がある場合は、精神神経科の病気であるうつ病との見分けが必要だとしています(日本女性医学学会, n.d.)。すぐに「よりそいホットライン」(0120-279-338、24時間・無料)に連絡してください。いのちの電話(0570-783-556、毎日10:00〜22:00・通話料がかかります)もあります。今すぐ命の危険があるときは、119(救急)または110(警察)に連絡してください。自傷についての記事もあります。

よくある質問

Q. 更年期はがまんすれば過ぎますか? A. 症状は和らぐことが多いものの、うつ病なら待てば自然によくなるとは限りません。米国の女性203人を14年間追った研究では、うつ症状は最後の月経の前の数年に多く、その後は減りましたが、うつ病歴のある女性は閉経後もリスクが高いままでした(Freeman ほか, 2014)。最後の月経から2〜4年たつとうつ病のリスクは下がるようで、特にうつ病がこの時期だけだった女性でそうだとするレビューもありますが(Bromberger & Epperson, 2018)、ホルモンのゆらぎが落ち着けばうつもよくなると軽く考えるのは適切でないという指摘もあります(Kulkarni, 2018)。国のサイトも、つらい場合はがまんせず受診するよう勧めています(厚生労働省, n.d.a)。

Q. 更年期の落ち込みはすべてホルモンのせいですか? A. いいえ。米国の女性3,302人を毎年調べた研究では、健康状態や心理社会的な要因もうつ症状の点数を高め、ときには閉経の段階より重要でした(Bromberger ほか, 2007)。ホルモンの変動がうつ症状とつながったのは、とてもつらい出来事を多く経験していた女性だけで(Gordon ほか, 2016)、うつ病歴やとてもつらい出来事も、大うつ病エピソードのオッズを3倍近くに高めていました(Bromberger ほか, 2011)。

Q. ホルモン療法は危険ですか、安全ですか? A. どちらとも言い切れません。60歳未満で更年期の症状があり、乳がんや血栓のリスクが高くなければ、利益がリスクを上回る可能性が高いとされますが、ホルモン補充療法は乳がんのリスクをわずかに高めることがあり、そのリスクは長く使うほど、年齢が上がるほど大きくなります(NHS, 2023)。症状がつらい閉経早期の女性が60歳前に始めることは支持されていますが、慢性疾患の予防のために使うことは支持されていません(Manson ほか, 2024)。うつ病の治療だけを目的に勧められることもありません(韓国閉経学会, 2025)。自分のリスクは医師と一緒に考えてください。

Q. 物忘れがひどくなりました。認知症の始まりですか? A. たいていは違います。更年期のブレインフォグはたいていわずかで日常生活は保たれ、時間とともに落ち着いたりよくなったりすることが多いものです。ただ、しだいに悪化したり生活に支障が出たりするなら、ほかの原因を調べてもらいましょう(Khadilkar ほか, 2026)。韓国閉経学会は、認知機能を高めたり認知機能の低下を防いだりすることだけを目的にしたホルモン療法は勧めていません(韓国閉経学会, 2025)。

Q. 男性にも更年期はありますか? A. 女性の閉経のような急な変化はありません。テストステロンは年齢とともにゆるやかに減り、まれに治療が必要な欠乏が起こることもありますが、気分の変化はストレス、うつ、不安によることが多いとされます(NHS, 2022)。詳しくは上の男性更年期の項目にあります。

Q. 更年期のセルフチェックでわかりますか? A. 点数表は診断ではありません。自己記入式の尺度は、いまの症状の数や重さを知り、さらに評価が必要な人を見つけるのに役立ちますが、うつ病性障害を診断するものではありません(Bromberger & Epperson, 2018)。国際産婦人科連合は、中年期の診療の一部として、PHQ-9などの道具でこころの健康を定期的に確かめるよう勧めています(FIGO, 2026)。mind.ioには更年期の検査はなく、PHQ-9は過去2週間の気分を確かめるスクリーニングです。

Q. 更年期の症状はどのくらい続きますか? A. 人によって違います。症状はふつう7〜9年、ときにはそれ以上続き、その間に、ほてりが和らいで気分の落ち込みや不安が現れるなど、変わっていくこともあります(NHS, 2026a)。韓国閉経学会のガイドラインは、ほてりなどの血管運動症状はふつう閉経の1〜3年前に始まり、閉経のころにもっとも強くなり、数年続いて、まれに閉経後10年まで続くこともあると説明しています(韓国閉経学会, 2025)。

Q. 更年期の落ち込みがひどく、死にたいと思うことさえあります。 A. 一人で抱えないでください。すぐに「よりそいホットライン」(0120-279-338、24時間・無料)に連絡してください。いのちの電話(0570-783-556、毎日10:00〜22:00・通話料がかかります)もあります。今すぐ命の危険があるときは、119(救急)または110(警察)に連絡してください。

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